平和安全法制その4

この月曜から、参院特別委員会において標記法制の審議が開始され、その冒頭、自民党の”ヒゲの隊長”佐藤正久議員が質問にたったが、その中で、世界の安全保障環境の変化の例として、ロシアのクリミア併合につき述べ、ウクライナがNATOの加盟国か否か質問し、加盟国ではないとの回答を得ると、すかさず、集団的自衛権の重要性を強調していた。

しかし、同議員が、BSフジのプライムニュースに7月16日に登場した折、維新が提案している「条約に基づき・・・」の文言に関し、「確かに、米国とは条約を結んでいるが、"我が国と密接な関係にある他国”は、単に米国に止まらず、例えば豪州等があるが、その際、いちいちそれらの国と条約を結ぶと言う緊急時において胡乱な手続きは取りえず・・・」と、発言していたと記憶する。

即ち、集団的自衛権行使の要件は、①被攻撃国の要請又は同意②必要性③均衡性であり、同盟国間の条約は条件とはなっていないのである。

この点、その1で記述していたように集団的自衛権の行使は、敵対国に対しては権利であるが、同盟国に対しては”義務”と考えるべきなのである。義務のない所に、”助っ人”に行くのは、通常はありえず、有るとすれば、敵対国が圧倒的に弱者である場合でしかないであろう。

そして、佐藤議員が指摘したようにウクライナはNATO加盟国ではない為に、米国のみならず独・仏・英等は、ウクライナへの”助っ人”の義務はないのである。
その上、プーチン大統領がその後の報道で明らかにしたように、”核戦争”をも辞さずの覚悟でクリミアを併合したのであるから、あったかどうかは不明であるがウクライナが、たとえ、米国等に対して集団的自衛権の行使を要請乃至同意していたとしても、”義務”のない所で、米国等が”助っ人”に行く事はなかった筈である。
逆に言えば、ロシアはウクライナがNATOに加盟していない、条約を結んでいないから、クリミア併合と言う強行手段にでたのである。(この点、バルト三国はNATOに加盟している)

従って、佐藤議員の指摘は、全くの的外れであり、ウクライナの場合は、集団的自衛権が義務として履行されるようにNATOに加盟しておくべきであった事が重要なのであり、集団的自衛権自体が重要なのではないのである。

そして、その1で記述したように、また、上述佐藤議員発言のように、今回法制は、この(ガイドラインはあるとしても明確な)条約締結抜きで、集団的自衛権を”権利”だとして行使する、世界に類のない国家になろうとしているであり、この事を看過したまま、標記法制の採決・審議をすすめている政治・メディア・憲法学者等の状況には唖然とし、暗澹たる気持ちにならざるを得ない。

所で、安部首相は、海外派兵は”憲法で禁止されている”と言いつつ、ホルムズ海峡における機雷掃海活動は、所謂3要件を満足した場合における”受動的”活動であり、海外派兵の”例外”に属すると回答していた。

実は、BSフジのプライムニュースに、元(前)自衛隊3幕僚長が登場された際、元海上幕僚長の方が、機雷除去活動の重要性につき、今、ホルムズ海峡を通って日本に輸送されている原油を積載するタンカーを地図上にプロットすれば、それは、点々ではなくほぼ線になる密度だと言われ、シーレーン防衛の重要性を強調されており、それはその通りなのかもしれないが、何とはなく、”違和感”を感じた事があった。

そして、安部首相も、同機雷掃海活動の必要性について、同様趣旨の事を述べられている。

その1に既述した通り、今回標記法制が、今、議論されている様に合憲か違憲かは、結局、成立後における最高裁の判断によるしかないと判断するが、合憲を前提とすれば、この機雷掃海活動から以下の議論が可能になるのではと考えられる。

それは、海外派兵は”憲法で禁止されている”とは、”現行の政府憲法解釈”ではとの意味であると”考えるべき”と思うが、その例外としてのホルムズ海峡機雷掃海活動は、”今回憲法解釈変更”で認める限定的集団的自衛権の行使により、始めて、認められるものであろう。

とすれば、その掃海活動の必要性の根拠として挙げられるホルムズ海峡から日本に至るシーレーンの安全航行の確保、即ちその防衛活動が認められると言う事になる。
何故なら、ホルムズ海峡はシーレーンの起点であり、終点である日本との間において、(即ち、南シナ海や台湾海峡等において)同じように機雷が敷設されれば、その掃海活動は、当然、認められるべきものであろうからである。

勿論、”集団的自衛権”の行使であるから、米国等と共同した”国際”的活動の一環としての活動であり、日本単独での行動ではない訳であるが、”自衛権”行使乃至(海上)自衛隊活動の一環としての”シーレーン防衛”活動が公に認められる事に他ならないであろう。

とすれば、個別的自衛権の行使は”現行憲法”で”フルスペック”で認められている訳であり、”個別的自衛権”行使としてのシーレーン防衛活動も、当然、認められると考える事が出来ると思われる。

何故なら、集団的自衛権の行使としてのシーレーン防衛活動が認められれば、個別的自衛権の行使は、もともと認められている訳であり、シーレーン防衛活動自体が自衛権行使の範疇に入るのであるから、個別的自衛権行使としてのシーレーン防衛活動も、当然、”有り得る”と言う事である。

確か、今の航空自衛隊のF15が導入される際、その地上攻撃力のみならず、航続距離を長くし”仮想敵国”の領土内に侵攻出来る空中給油装置を付けるなど論外である等の議論があったと記憶しているが、今回標記法制において、自衛隊法3条から「直接侵略及び間接侵略に対し」の文言が削除され、単に「我が国を防衛する」とされた。

これは、所謂”受動的”防衛から”能動的”防衛に変化させ得る文言に改めたと言う事であろうし、それは、例外として挙げられているホルムズ海峡における機雷掃海活動の為に必要だと言う事であろうが、上述、それは、(今回法制が違憲とされない限り)単に”例外”だけにとどまらず、論理的には、それ以上の意味・解釈がなされうる事が可能なものだと考える。
【なお、この際、現行憲法が禁止している海外派兵の意義が問題となろうが、それは、(他国の同意なしに、その)他国の領土・領海に自衛隊が入って行くと言う事であろうし、従って、公海上では、自由に”(シーレーン)防衛”活動が出来ると言う事であろうと考える。
(もっと言えば、侵略でなく、防衛のためには、その国の同意なしに他国の領土・領海に入って言っても、海外派兵ではないと、”事態の変化”によっては、解釈上は拡大の余地があるかとも思われる)】

無論、この様な議論は現状なされておらず、維新提出案も、経済的危機は除外した「武力攻撃危機事態」の概念の下で、ホルムズ海峡での活動は、限定的集団的自衛権の枠外で”違憲”の範疇と解釈、認容していない訳である。

承知のとおり、ホルムズ海峡経由の原油輸送ルートは日本と同等乃至それ以上に中国にとっても”存立危機事態”足りうる訳であり、所謂、”真珠の首飾り”状に、現実に、シーレーン防衛体制を築き上げようとしている訳である。

今回標記法制が、将来の日(米)vs中のシーレーン”防衛”体制の相克を予期している訳ではないと思うが、”事態の変化”によっては、十分有り得る事とであると思われる。