失われた30年~その1

失われた30年

今日6月8日、21/1-3期のGDP2次速報値が公表されたが、実質季調済前期比年率で、1次の-5.1%が-3.9%と1.2%の改善?と成っている。
が、その内訳を寄与度で見れば、個人消費(家計最終消費)は年率0.4%(対前期比0.1%悪化の-0.8%)の落込み増に対し、政府最終消費と資本形成が対前期比-0.2%と1次速報値より0.3%改善、年率で1.2%の増加要因と成っている。

また、名目・季調済値を見ると、1次の年率-6.3%が同-5.1%と実質同様1.2%の-幅縮小とはなっているものの、寄与度で見れば、個人消費は実質同値年率0.4%落込み増となっているのに対し、政府最終消費
は前期比-0.1%で1次比0.2%増・民間在庫が前期比+0.4%で1次比0.2%増と、1次速報値対比の増加要因は、内訳的に経済状態の混迷を幾分かでも緩和させるものとは成っていない。

これは、同時に今日公表されている‘20年度の前年度比2次速報値が1次速報値同値の-4.6%と、昨年コロナ戦開戦時の世界的経済見通しとしてのΔ5%、と言うBall Park Figureの予想通りの結果となっている。(文末、添付の表及びグラフの#1を参照)

一体、1次速報値が公表された5月18日のnikkei.comの記事(11:57更新)では「1~3月GDP、実質年率5.1%減 20年度は戦後最大4.6%減」と題され「落ち込み幅はリーマン・ショックがあった08年度(3.6%減*)を超え、戦後最大となった。1~3月期は新型コロナウイルスの感染拡大で、政府が東京などに緊急事態宣言を発令した時期と重なる。その影響で個人消費が低迷し、全体を押し下げた。1~3月期のマイナス幅はQUICKがまとめた民間エコノミスト予測の中心値(年率4.6%減)より大きかった。」としており、更に、13:00配信の「2年連続マイナス成長、コロナが追い打ち 回復足踏み」と題する記事では「19年度のマイナス成長は米中貿易戦争や消費増税の影響があった。もともとブレーキがかかっていた国内景気にコロナ禍が追い打ちをかけた。GDPの減少幅は19年度の0.5%*から急拡大した。2年度連続のマイナス成長はリーマン・ショックがあった08~09年度以来だ。20年度は内需の柱である個人消費が前年度比6.0%減と鮮明に落ち込んだ。感染の一時的な落ち着きや政府の需要喚起策“Go Toキャンペーン”などで一時的に持ち直す時期があったものの、年度内で2度に及んだ緊急事態宣言の影響が大きかった」と解説している。*内閣府公式統計では08年度-3.4%・19年度0.0%そして、119日、日経では「景気回復、コロナ対策映す。米中加速、日欧遅れ」と標題し1-3月期「米国は前期比年率6.4%と3四半期連続で増えた。ワクチン接種が普及し、バイデン政権の経済対策による現金給付も始ったことで、個人消費が10.7%と大きく伸びた。中国は前期比0.6%増・・・年率換算では2.4%増となった。プラスとなるのは4四半期連続だ。新型コロナのまん延を食い止めつつ企業活動が堅調に推移している。・・・ユーロ-圏は前期比年率2.5%減と2四半期連続のマイナスになる。変異ウイルスの拡大で各国がロックダウンし、経済活動が低迷した」とし、更に4-6月期予測について「米国は前期比年率9.7%増となり、1-3月期6.4%増から加速する。・・・ユーロ圏も7.0%増と3四半期ぶりに+成長に復帰し大きく伸びる。・・・一方で、日本は1.7%増に止まる。個人消費の低迷が要因で、日本の出遅れ感は鮮明だ。・・・(この見通しを前年比で見ると)中国が108、次いで米国が101となり、何れもコロナ禍前の水準を超す。日本は98、ユーロー圏は96で、コロナ禍前にはまだ届かない。」と解説している。

(文末、添付の表及びグラフの#2を参照)

また、上掲の表を載せ、購買者担当者景気指数(PMI)とワクチン摂取率の相関から、「接種進展、景況感を左右」と題し、日本経済の「景況感回復の遅れが目立つ」としている。
この1次速報値公表時の日経解説と2次速報値の内訳を見れば、コロナ禍→個人消費低迷→ワクチン接種遅れ→21年(度)における景気回復遅れ、というシナリオ・ストリーテイラーとなるが、既に国際通貨基金(IMF)が4月6日に公表した春季レポートに基づき、唐鎌大輔[みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト]氏が下記の表を作成し、

(文末、添付の表及びグラフの#3を参照)

「2021年、22年ともに、成長率トップはイギリスで、日本が最下位という構図が続く。
もちろん、潜在成長率や拡張財政の規模、金融政策の運営、産業構造など、比較すべき論点は多岐にわたるため、成長率の差はワクチン接種状況のみに帰する問題ではない。とはいえ、「ワクチン接種なくして経済活動の正常化なし」というのは否定しようのない事実であり、ワクチン接種が進んでいる国ほど将来の不透明感が少なく、消費・投資意欲もかき立てられやすいというのは論理的に説明がつく話だ」(Apr. 08, 2021www.businessinsider.jp)
と述べられている。

「ワクチン接種なくして経済活動の正常化なし」とは、どこかで聞いたような言葉であるが、「バブル後、確かに日本は、自信を失いかけていたと思う。しかし、日本には、優秀な人材がいる。そして、個人資産は1,000兆円を超え、対外資産は130兆円と世界最大の債権国。潜在力は大きい。だからこそ、『改革なくして成長なし』のもと、改革を進めている。」(小泉内閣メールマガジン 第27号 2001/12/20小泉内閣メールマガジン 第27号2001/12/20)と、標榜して郵政事業の民営化・道路関係四公団の民営化等所謂「小泉構造改革」が推し進められた。

当時、筆者は、この『改革なくして成長なし』対して、よく、もしこの主張が正しければ「成長すれば、(構造)改革出来る」と言っていた。
何故なら、この『改革なくして成長なし』が正しいとしても、この逆の「成長無ければ、改革なし」は正しいかは分らないが、その対偶に当たる「成長すれば、(構造)改革出来る」は正しいからだ。

従って、「否定しようのない事実」か否かは、「経済活動が正常化すれば、ワクチン接種出来る」が正しいか否かを考えればいい訳であるが、如何か。

実は、筆者はさる5月31日に1回目のモデルナワクチンの接種を受けた。      区から接種券が送られてきたのが、5月24日で、区の方では7月17日の予約しか取れなかった。そこで、件の大規模接種会場のwebを試したら、言わばがら空き状態で5月中に打てたと言う事である。

この自衛隊出動を一存で決めたのが管総理で有り、非常事態下における自衛隊出動であれば、前統合参謀長は国家安全保障会議における決定プロセスが必要であった旨批判されたいたが、コロナ禍の端緒であるプリンセスダイヤモンデ号における所謂ゾーン区別を指弾した岩田教授は「今の日本は幸か不幸かオリンピックを開催するという強い動機があるので、ちょっとやそっとメディアがなんと言おうが、政治家と行政は止まりません。オリンピックをやるとなると、行政がこんなにちゃんと動き、対応が柔軟になるのなら、毎年オリンピックをやってくれれば日本の予防接種改革ができるのではないかと考えたりもします。もちろん冗談ですよ(笑)」(感染症専門医が見た五輪で変わったこと、変わらないこと6/11(金【BuzzFeed Japan Medical】)と述べられ、「政府は「オリンピックが人の動きを活性化させたエビデンスはない」と言い抜けるでしょう。Go To事業の言い訳と同じです。 菅首相は「Go To事業が感染を増やしたというエビデンスはない」と言いながら、「緊急事態宣言で人流が減った」と言っています。ダブルスタンダードです。人の流れを減らしたことを感染抑止の根拠として挙げるなら、Go Toはダメだったと認めなくてはなりません。」とも語られている。

事実、9日の党首討論を見ても、従前のPCR検査等コロナ対策の不備を突かれて「私権制限が,緊急事態条項が,憲法に規定されていない」事から、欧米等の「ロックダウン等が出来なかった」と反論する側から、「安心・安全・国民の命」を守る為に、五輪参加者へのPCR検査・GPS行動管理等、正しく五輪参加者には私権がないかの如き答弁を平然と行っている。そして、その点を指摘しないメデイア・野党の感覚も疑わざるを得ないのだが、斯様な事例は、それこそコロナ禍端緒の時点においても、公示期間経過後でなければ海外からの入国者に対してPCR検査を行えないのはおかしいので超法規的にやるようにと、かの鈴木宗男銀から提言された前総理の下、如何なる決定過程を経たか全く不明なまま功労者課長の1片の通達の下、公示期間完了前からPCR検査が行われなっている。

また、与党重鎮である細田博之元官房長官現下の沖縄のコロナ猖獗に関し、「県民自治を今こそ発令すべきで、沖縄県として独自に飛行機で来る人、船で来る人は全員検査をします、乗るときに検査をするか、降りるときに検査をするか、全員陽性者をはねます。  その代わり陰性で来た人は、どうぞオトーリでもなんでもしてください。そういうことにして、台湾のように、台湾が千数百人しか、まだ発病、感染者が出てないというのをお手本にして、沖縄県こそ独自の政策をとるべきである。  
これはまさに地方自治の本旨であって、国の政策に頼るなんて、沖縄県民らしくないじゃない、と。頼りにならないような国の政策なんか頼りにしたって、コロナはね、対策が講じられませんよ。どんどん隠れている陽性者が飛んでくるんだから。  従ってですね、もっと知事さんは沖縄県独自の政策をとって、それに対する国の予算もとって、そうして感染者がゼロである、そして沖縄県に再び1300万人の観光客をどうやって呼び入れて、経済を振興するか、それこそ今問われている大問題であって、それをしなければ、たとえまん延防止だろうが、緊急事態の発令だろうが、してもですね、そんなものは何の効果もないに等しいと。  むしろ沖縄県の特殊性を利用して、県境を封鎖するつもりでどんどん検査をして、通ったもんだけを通す。そういう政策をとるべきであると。もう9カ月前から申し上げているけど、こういうていたらくなとんでもない話ですよ。」(5/20(木) 沖縄タイムス)、と語られているようである。
しかし、9ヶ月前位と言えば、丁度政府が7月22日に「Go To トラベル」をスタートした頃に当たり、TVに出演した「『むつ市長』はGo-To受入れ拒否の理由として医療体制が到底予想される来訪者の規模に対応できない事を上げられており、そのような現状は、5月であったか6月であったか時期は覚えていないが、石垣島での観光客対応でも有った筈である。~むつ市長は、もし、そのような状況で、『感染者がでれば、それは人災』だと、明言・名言されていた。Go-Toトラベルは、コロナと言う感染症に対し、経済と両立させるための“チャレンジ”だとの評価に対して!」と記述し、「都から行くでも都に来るでも、全国全ての旅行者と受入施設にコロナ検査を課し、その陰性証明無しにはGo-Toトラベルの補償は受けられないようにすれば良いだけの話しだろう~むつ市長も、証明書付きであれば、もし、感染者がでたとしても、それを単純に人災と割り切って非難は出来ないだろうと考える。」と論じていた頃である。
当時の総理・官房長官は、全く、細田元官房長官の提言に対して、聞く耳を持っていなかった!と言う事になる。
政府・与党全体として全くのダブルスタンダード、コロナ禍は人災、20年度における景気落込みは経済的対策における失政の結果と言う事になる。
所で、アベノミクスに対してスガノミクス、と言う言葉はついぞ目にした事はない。
現総理就任時の所信声明がアベノミクス・安倍政治の継承であった事を思えば、全く不可思議ではないが、だとすれば、20年(度)の経済評価に際しても、アベノミクス的観点からの評価が必要になろう。
この点、アベノミクスの“3本の矢”の内、その“異次元の量的緩和”政策を遂行している日銀の黒田総裁は、「『物価目標の実現に時間がかかっており残念なことだ』と述べました。その一方で、2%の物価目標は達成できるとした上で、『私の任期の中【2023年4月8日】でどうこうということは必要ない。目標の達成が2024年度以降になったとしても致し方ないと思っている』と述べ、いまの金融緩和策を粘り強く続ける考えを強調しました」(「今の任期中に2%の物価目標 達成困難に。」www.nhk.or.jp2021年4月27日)、と述べたとの事である。

総裁、自ら“Goal Post”を当初の”2年“から、”諸般“の事情~消費税税率の5%から8%への引き上げ・原油価格の下落・携帯電話料金の値下げ・新型コロナウイルスの感染拡大(同上27日記事から)~はあるにせよ、動かし続け、結局、達成年度は何時になっても致し方ない、と事実上目標達成をgive upしている。
この異次元の金融緩和による物価上昇については、既に、「乗数効果」・「マネーサプライ」の項において、所謂フィッシャー方程式おける貨幣の流通速度が定数乃至安定していないと、ハードマネーの供給がマネーサプライの増加に結びつかず、実現は不可能だ、と論じて来ている。
そこで、これらの推移を下表*により、検証してみる。

(文末、添付の表及びグラフの#4を参照)

*MB(マネタリーベース=「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」+「日銀当座預金」)。1981/3月以前は、「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」+「準備預金額」であり、定義が当座預金額膨張?に伴い、変更されている。(上記、「乗数効果」・「マネーサプライ」の項、参照)
また、「日本銀行調査統計局では、1955年以降、景気、物価の動向やその先行きを判断するための一つの指標として、マネーサプライ統計を作成・公表してきました。また、2008年6月には、通貨保有主体や各指標の通貨発行主体および金融商品の範囲の見直しを行うとともに、同統計の名称をマネーストック統計に変更しました。現在のマネーストック統計のデータは、2003年4月分まで遡ることができます。」と言う事から、‘03年以降の数値を載せている。
名目GDPは('21は1Q)、各4Q平均値としている。

表から明らかなように、貨幣の流通速度vは、03~08年までは、0.51~0.53、概ね0.52と安定的!に推移している。
しかし、リーマン・ショック後の09~10年に0.47と大きく落ち込んだ後、異次元の金融緩和策が講じられた後、0.45~0.41と段階的?に落込んでいき、コロナ禍下、20年・0.38、21年1Q・0.36と極端に低下している。
V自体は、NGDPが相対的に伸長しなくても、マナーサプライが相対的に拡大しすぎても低下・落込むが、異次元の金融緩和によって物価上昇をもたらすという“目論見”は、いずれにしろ、vが安定的でなければ達成不可能な目標である、事には変わらない。
この点、異次元の金融緩和自体をハードマネー=マネタリーベース(MB)の大量供給=日銀当座預金の異次元の拡大によって実現する。即ち、銀行の信用創造によって、マネーサプライ・M3の拡大を図るという過程も、貨幣乗数m=M3/MBの安定、論理的な“乗数過程”の完遂が為されなければあり得ない事である。
そして、このmの推移を見れば、より明確に異次元の金融緩和策の失敗、論理的根拠が崩れ去ったいる事が明らかとなる。
即ち、12年までは9~11で推移してものが、MBの大量供給が始った13年からは極端に落込み始め、vとは異なり、既に19年には2.7迄落込んでいるのである。
従って、このmとvを掛け合わせたmv、即ち、MBのNGDPに対する乗数効果と言うかフィッシャー方程式そのものと言うか、12年までは4~6あったものが19年には1.とほぼ等倍となり、20年は1.0正しく等倍となり、ついに21年1Qには0.9と、MBの供給増加よりNGDPの拡大が小さくなってしまった!!
正しく、麻生財務大臣・副総理の言う“ブタ積み”であり、“アベノミクス批判”で小林教授が指摘されていた「企業は需要増加を見込んで設備投資を行う“ので有り、”物価上昇を期待して設備投資を行う」訳でなく、フリードマン流に”物価上昇を労働者より早く察知するから供給曲線を右シフトさせる“訳もないのである。
と、ここまで記述していていた時に、「米FRB ゼロ金利政策の解除 2023年中に前倒の見通し」(2021年6月17日 5時53分 https://www.nhk.or.jp/)というネット記事が流れ、また、夜のNHKニュースでは、米国のCPIが、最近の景気好況により前年比4~5%の伸びを示しており、引締方向に転換するのは当然と思われるが、これにより、所謂経済格差が拡大することが懸念される旨の解説をしていた.(文末、添付の表及びグラフの#5を参照)

実は、先の黒田総裁の発言の中で、いわゆる「出口政策」に関して、「「現時点で議論することは時期尚早だ。あくまでも2%の物価安定の目標が目に見えてくる段階で戦略の議論をする」と述べたと言う事である。

上述グラフの通り、確かに日本におけるCPIは過去1年、生鮮食料品及びエネルギーを除いて見ても、最大0.4%位の上昇しか示しておらず、出口論は時期尚早と言うべきかもしれぬ。
しかし、生活実感としては、ガソリン価格は20/5/18の@113円/Lが、直近21/6/18の@143/Lと18/9/29以来の高値となっているし、早梅雨のせいか生鮮食料の価格も2倍近いものになっているものあり、また、近年、価格据え置きながら量目減少により実体値上げとなっているものも多く、公表CPI・GDPデフレーターほどの価格低迷感がないが、多くの家計の実感ではないのか
これは、先で見るように名目所得が伸長していない・雇用賃金が伸びていない等、“実感なき成長”と呼ばれる過去30年の日本経済に由来していると言える。
斯様な日本経済において、米国の0金利脱却・金利上昇がどのような影響を及ぼすかを考えた場合、それは、異次元の金融緩和において進展した円安の更なる進展であろう。
そして、それは、旧来の日本経済においては輸出伸長をもたらしたであろうが、今後は逆に、輸入価格上昇に依る国内物価の上昇をもたらすと考えるべきで有り、そうすると、過去30年の所謂デフレ下の経済成長・Def-pansionではなく、物価上昇下の経済低迷Stag-flationに陥る可能性が高いと考える。
とすれば、日銀は金融引締めに入ることは出来ず、“出口戦略”は益々遠のき、金融政策は益々混迷を深めていく?と思われる。

上記の筆者予測が当を得ているものか否かは将来の“現実”を見ていくしかないが、先のアベノミクスに付いての評価は、本来、安倍政権が退去した昨年に行われているべきものであった、筆者の存知する限り、その評価は驚くほど少なかったと思われる。
実は、筆者もそのコメントをしようとデーターを集めてはいたが、現在も猖獗を極めるコロナ戦にかかるコメントに懸かりきりとなり、なしえていなかった。
そのような中、加谷桂一氏と木内登英氏のコメントに眼が引かれた。
後者の「2012年7月から2017年7月まで日本銀行審議委員を務め、アベノミクスをつぶさに見、たびたび黒田東彦総裁の提案に反対意見を述べ」ていた木内氏は、「アベノミクスに明確な政策効果はなかった。・・・国内経済が大きく改善したとは言えない。世界経済の回復による恩恵を長期に受けた・・・(が)2019年からすでに経済は減速しており、コロナショックがそこにぶつかった。」(大崎 明子;東洋経済)と昨年9/11に述べ、「アベノミクスの3本の矢のうち、1番目の金融政策と2番目の財政政策は弊害が大きかった。3番目の成長戦略は本来やるべきことだったが、効果を出せなかった。」と総括されている。
そして、「「デフレ克服」を柱に据え・・・「需要創出」が必要だということになり、日本銀行はインフレ率2%の目標を掲げて金融緩和を続け・・・国債を大量に買い続け532兆円、株も33兆円積み上げ・・・(た)最も大きな弊害は財政規律の弛緩だ。」と、第一の矢を鋭く批判されている。
「日本経済の問題点は経済の実力が落ちてい・・・やるべきことは構造改革を行って労働生産性を上げるという供給サイドの改革だった・・・(が)結果であるインフレ率のほうを目標に設定し、財政赤字を積み上げて将来に負の遺産を作ってしまった。」と、的外れな第二の矢の非難をし、「毎年毎年テーマを変え・・・地方創生、働き方改革、教育改革(と)経済政策の効果よりも政治的なウケを狙(い)・・・つねに政治的で、「やってる感」だけに終始した」と、第三の矢の成長戦略についてはにべもない評価である。
そして、「デジタル化、一極集中の解消、サービスの生産性向上」の新しき“三本の矢”を今後の政権は経済政策目標とすべきだと提言されている。(詳細上記記事)
一方、「原子核工学科卒業後・・・コンサルティング業務に従事」している前者の加谷氏は、経歴からか「アベノミクスは果たして成果を上げたのか、数字を用いて検証した」とし、結論的には「最終的にアベノミクスは量的緩和策の一本足打法となった。その間、未来投資戦略、日本再興戦略など、・・・(は)各省から提示された些末なプランの集大成に過ぎず、マクロ的な施策としては量的緩和策のみだった。・・・株式市場にはよい結果をもたらしたが、実体経済には思った程の効果を発揮しなかったというのが、もっとも客観的な評価といってよい・・・(これは)2012年10~12月期から2019年10~12月期までのGDP(国内総生産)の平均成長率は、物価を考慮した実質で0.9%だった。安倍氏は幾度となく実質2%の成長を実現すると説明していたが、その半分以下というのが現実だった(ちなみにコロナ危機は特殊要因なので2020年1月以降については計算から除外してある)。この間、米国やドイツなど諸外国は1.5~2%の成長を実現しているので、日本は相対的にはマイナス成長だった・・・(従って)アベノミクスはうまく機能しなかったと判断されても仕方がない」(20・9・2;現代ビジネス)と述べられている。
よって、先の木内氏同様加谷氏もアベノミクスは経済政策としては“失敗”だったとの認識に差異はないが、アベノミクスそのものに対する認識には、前述木内氏が「デフレ克服を柱」としたが「やるべきことは構造改革を行って労働生産性を上げるという供給サイドの改革だった」とされているのに対し、加谷氏は「政策の基軸・・・は、・・・日本の産業構造を転換し、これを持続的な成長につなげるという小泉・竹中路線である(安倍氏はもともと小泉氏の後継という立場であり、そうであればこそ、当初は構造改革特区などを成長戦略として前面に打ち出していた)」とし、「量的緩和策・・・は、・・・デフレ脱却の手段であり、安倍氏は構造改革を成長戦略の本丸と位置付けていた・・・が、いつしか安倍氏は・・・意識的か、無意識的かは不明」だがとして、前述「最終的にアベノミクスは量的緩和策の一本足打法となった。」と認識されている。
そして「意識的か、無意識的」かの点については、続く9/9(水) 配信で「だが安倍氏は、日本の産業構造を変えるという大きな改革については、ほとんど手を付けず、原発輸出の推進やインバウンド需要など、小粒な輸出支援策を次々と繰り出し、これを成長戦略と称した(インバウンドも外国人のお金をアテにするという点では輸出産業の延長線上にある)。」と述べ、有効な構造改革策・経済対策が打てなかったと指摘されている。
しかし、この(筆者の両氏のコメントへの理解の仕方としての)認識の相違は、アベノミクス自体への評価に違いが無いように、むしろアベノミクスを評価する為の論点の順番の相違と言うべきものであり、それは、両氏の、では本来問題とすべき、従って、今後どのような経済対策を講ずべきか、と言う事に付いては基本的には違いないからであり、力点の置き方が違っているからである。
即ち、木内氏は前述の通り、新しき3本の矢と言うべきものを提言されているのに対し、加谷氏は、その内の一つである「安倍政権が注力すべきだった・・・国内サービス業の生産性を向上させ、賃金を引き上げることだった」(9/9(配信),と断言されているからだ。
そして、その断言に至る過程において、以下の図(前掲20・9・2)を示されている。

(文末、添付の表及びグラフの#6を参照)

この図を作成した理由について加谷氏は「この4つを取り上げたのは、アベノミクスは量的緩和策という「金融政策」、小泉・竹中構造改革は「サプライサイドの経済政策」、小渕内閣は「ディマンドサイドの経済政策」と、マクロ経済学の教科書に出てくる典型的な経済政策が綺麗に揃っているからである。
これら教科書的な施策を比較することで、バブル崩壊以降の日本経済において、どのようなマクロ政策が有効だったのかヒントを与えてくれるはずだ。ちなみに民主党政権は経済政策についてはほぼ無策だったので、「何もしない」場合との比較と考えて差し支えない。」と述べられている。(前掲20・9・2)
ちなみに、橋本・小淵政権は‘96年1月11日~’00年4月5日、小泉政権は(間に森政権で)‘01年4月26日~’05年9月21日、民主党政権は(間の第一次阿倍・福田・麻生政権があって)‘09年9月16日~’12年12月26日、第二次安倍政権は‘12年12月26日~’20年9月16日迄だが、管政権に継承されアベノミクスは現在進行形と考えて良いだろう。
バブル崩壊は‘90年と考えるが、後述’97年を含んでいるので、加谷氏の言う“バブル崩壊以降”の日本経済全般の“マクロ政策”を網羅していると言って良いだろう。
そして図から明からな様に「先ほど、アベノミクス時代の平均成長率は0.9%だと述べたが、民主党政権時代は1.6%、小泉時代は1.0%、橋本・小渕時代は0.9%だったので、民主党政権を除くと成長率に大きな差はない。あえて順位を付けるとアベノミクスは最下位であり(橋本・小渕政権時代の方がわずかに成長率は高い)、しかも、この数字はコロナ危機を除外するというゲタを履かせたものである。
だが、民主党時代がズバ抜けて良かったのかというとそうでもない。当時はリーマンショック後の急回復というボーナスがあったので数字が良かっただけであり、結局のところ、経済政策による成長率の顕著な違いは観察されないというのが現実だ。」と述べられている。
先述、異次元の金融緩和による物価上昇策が失敗であったように、そもそもの各教科書的経済政策が経済学的に誤りであったのか単純すぎたのか、それとも成立要件が厳しすぎるものであったか否かについては加谷氏は述べられていないが、「ただ、成長率の中身を見ると少々気になる点がある。民主党時代、小泉時代、橋本・小渕時代のいずれも個人消費はある程度の伸びを示したが、アベノミクスでは個人消費はほぼゼロ成長と壊滅的な状況だった。」とし、それは「輸出主導型から内需主導型へと日本経済が変化しているにもかかわらず、政策がこの現実に追いついていなかった」ためであるとし、「これはバブル崩壊以降、ずっと継続してきた問題である。その意味では、すべての政権にあてはまるテーマ」であり、「日本経済がより根源的かつ深刻な課題を抱えている可能性を示唆」(前掲20・9・2)しているとし、続く前掲9/9(配信)において、「各種の経済政策が効果を発揮しなかったのは、日本経済に対する根本的な認識の誤りがあ」り、「時代にあった適切な産業基盤があってこそ、マクロ政策が効果を発揮するのであって、マクロ政策が日本経済の骨格を定めるわけではない」と続けられる。
そして、「消費主導型経済の主役となるのはサービス業であり、今ではサービス業に従事する人の方が多くなっているが、サービス業の賃金は製造業よりも圧倒的に低い。」と、本来の“構造改革”の対象は“民でやれるものは民”でもなく、“デフレ“下において実質金利の高さに設備投資への意欲を削がれてしまってきた「輸出企業を支援することでもなく、国内サービス業の生産性を向上させ、賃金を引き上げる」事であり、「コロナ危機が継続する中、日本人自身の消費を拡大させるためには、企業活動のデジタル化や労働者のスキルアップ支援などソフト面の強化が必要となる。感染が拡大しても仕事を継続できる労働者を増やすとともに、サービス業の生産性を向上させ、賃金を引き上げることが重要だ。」と結論づけられている。
従って、先述、木内氏と加谷氏の“見立て”は同じなのであるが、木内氏はデフレ下の経済成長・実感なき成長・Def-pansionに注目され、加谷氏は構造改革・日本経済の変質に注目されている為に、問題意識・問題提起の仕方が異なっていたと考えられる。
ただ、加谷氏の明確な言及*は見られないが、木内氏がアベノミクス・異次元の金融緩和の「最も大きな弊害は財政規律の弛緩だ。」との指摘に対し、この“財政規律”の観点から、「日本の財政は危機にあり、再建のためには消費税の増税が避けられないといわれ」るが、長期的に見た“バブル崩壊以降”の日本経済の低迷は、逆に「「1997年の消費税増税がすべての間違い。失われた富は数千兆円規模になる」とし、「日本の過去の経済政策が間違っていたことを認め、まともな政策に転換しなければなりません。プライマリーバランス規律をはずしたうえでの「消費税0%」が、その大いなる一歩となる。日本は、いますぐそうすべきなのです」と「京都大学大学院の藤井聡教授は・・・ジャーナリストの田原総一朗さんとの対談」(‘21/5/20(木) で、主張されている。
*先述、木内氏は、新三本の矢とも言うべき中で、“一極集中の解消”も提言されているが、「デジタル化が進めば、政府は東京に集中する必要もない。計画倒れになっていた省庁移転を進められる。・・・OECDの分析研究でも都市でいうと700万人までは効率が良くなるが、これが臨界で、それを超えると集中のデメリットが出て実質賃金が下がってくる。地方に埋もれているインフラ、土地、人材などを有効に使うことができ・・・経済効率を高められる。」と、デジタル化とサービスの生産性向上の中間の矢と位置付けされていると考える。
そこで、この“‘97年消費増税主犯説”を見ていきたいと思うが、此処までで相当長くなっているので、中締め的に、筆者のアベノミクスに対する“政治”経済的評価を述べれば、その最大の+評価は、TPPを米国抜きにまとめ上げた事だと思っている。
「2018年3月に、我が国を含めて11か国の閣僚が署名を行ったTPP11協定」は、表向き(?)には甘利元担当大臣が苦心されたと思うが、フジテレビのプライムタイムに出演された(日付は記録していないが)五百籏頭眞氏が、大概「安倍首相が、トランプ大統領と会談し、TPPから離脱したとしても、TPP11は米国の利害を害するものではないから、成立の邪魔はしないで欲しい旨の説得をし得たので、甘利元大臣が実質的にまとめ上げる事が出来た」と話されていた。
戦後、政治経済的には実質米国の属国?と言って良い日本が、米国抜きで国際的なリーダーシップ?を取り、今やBrexitをやってしまった英国の、21世紀における(南シナ海・尖閣等を巡っての英空母群の来アジアを見れば)日英同盟とも言うべきTPPの参加を得ようとしている事は、ある意味前代未聞の事と言ってよいと思う。
ただ、今後のSocial Frameworkで触れていこうと思っているが、この“貿易協定”程“当事者”以外にその効果が見えにくいものはなく、ウルグアイ・ラウンド交渉の結果1994年に設立が合意され、1995年1月1日に設立されたWTOに関連し、6兆円の農業関連対策*が講じられたが、当時岩手県の農政部長から、「配布された予算の半分の使い途もない」と実情を打ち明けられた事がある。
*【立法と調査・2016. 1・No. 373】ウルグアイ・ラウンド対策;ウルグアイ・ラウンド合意により米についてのミニマム・アクセスの受入れ、輸入制限品目の関税化等が行われることを受け、政府は平成6(1994)年10 月、ウルグアイ・ラウンド農業合意関連対策大綱を決定し、①農業構造・農業経営、②農業生産、③農山村地域に関する目標を掲げ総事業費6兆円のウルグアイ・ラウンド関連対策を実施することとされた。「6兆円という金額が先行した」、「農業の体質強化と直接関係のない事業が多数実施された」とのマスコミ批判を受けて、農林水産省は、平成12(2000)年に中間評価を行っている。しかしながら、評価基準となる定量的な目標が対策の開始の時点でほとんど定められておらず、評価に当たって事後的に設定されている。農業構造・農業経営については、事業工期の短縮や担い手の稲作労働時間の短縮に効果が上がったが、担い手への農地集約の目標は半分も達成されなかったとしている。農業生産については、水稲の乾燥調製コストの削減や家畜ふん尿のたい肥化処理期間の短縮の効果が上がったとしている。農山村地域については、汚水処理施設整備による生活環境改善の効果が上がったとしている。

一方、最大―評価は、徹底的に“政治は三流”だが“一流”と言われていた「官僚組織」を徹底的に“ダメ”にした事だと思う。

元々、大臣の国会答弁・内閣法制局の法律解釈“権”・内閣人事局任命等はかの小沢氏が主張されていた理解しているが、これらを全て、現安倍・体制で“簒奪”してしまった。

結果、黒田日銀総裁による異次元の金融緩和・前外交官出自内閣法制局長による実質安保法制の為の憲法解釈変更頃までは“政治”として容認は出来ると考えるものの、その後のモリ・カケ・サクラにより財務省が崩壊、検事総長人事にカラんで法務省・人事院が崩壊、東北新社カラミで総務省が馬脚を現わし、厚労省は言わずもがなでコロナ戦により、その役人気質・無力振りをさらけ出してしまった。
無論、MIFにしろMITにしろ“ソニーの奇跡”“ホンダの独立路線”“クロネコヤマト;ミスター規制緩和”等を鑑みれば、もともと“民営”の力をうまく“脚色“していただけ、かも知れないが、”一流“の看板は背負っていた、と思う。

今は昔、の感が深いが、アベノミクス・異次元の金融緩和により「財政規律が弛緩」したどころか、コロナ戦により「財政のタガ」がハズレてしまった日本経済が今後如何なる途を辿るのか

閑下休題、先掲、藤井聡教授の論旨を見ていきたい。
藤井氏は「1997年の消費税増税によって日本がダメになったことは、GDP成長率、家計消費、賃金などあらゆる尺度が実証的に示しています。」として、次の2つの図を示している。

(文末、添付の表及びグラフの#7を参照)

「バブルが崩壊して成長が急速に鈍化した不況のとき増税すると、経済はさらに悪化してデフレーション・経済規模の縮小が始まってしまう。 世の中でおカネがグルグル回って生産や消費をしているとき、貨幣循環のあらゆる局面でおカネを取ってしまうのが消費税。・・・世帯所得は消費税増税の1997年から一本調子で下がっています。給与所得は消費税率を5%、8%、10%と上げるたびに、ガクガクと下がっています。だから、デフレ脱却前には絶対に増税してはダメで大至急、消費税増税の凍結、つまり“消費税0%”を実現すべきだ」と、先の主張をし、‘97年消費税の3%から5%への引き上げ時における「橋本内閣の田中秀征経済企画庁長官は、鬼のように怒って反対した(が)・・・大蔵役人たちが橋本龍太郎さんのところに、・・『・・増税してまったく問題ありません』とこぞって説明しにいった。たとえば、官房長官だった梶山静六さんは当時を振り返って『大蔵省の説明を鵜呑みにした私たち政治家が(中略)財政再建に優先的に取り組むことを決断した』と語っています。で、(その後)梶山さんは田中経済企画庁長官のところに行って、『俺は大蔵省にだまされた。この前はすまなかった。(消費税増税の確認をした)閣議のとき、あんたがいったとおりだった』と謝罪したという記録も残っています。」と、増税時の舞台裏も語られている。
そして、図表2に示されている通り、「実質賃金は第二次安倍晋三内閣のもとで激しく凋落しています。実質賃金を短期間でこれだけ低下させた内閣は、戦後においては安倍内閣以外にない。実質賃金が7%も減ってしまっています。」と指摘し、「1997年までは10年間の平均でたった3兆円ちょっとしか出していません。それが増税してデフレになったことで、一気に10年平均で23兆円まで増え・・・いま国債発行額は30兆円から40兆円時代になっています。」と、そもそも財政再建・財務バランス均衡・プライマリーバランス達成の為であった筈の消費税増税が、デフレを惹起・延引・深刻化させ、逆に、赤字国債増発・財政悪化を引き起こしたとされている。(文末、添付の表及びグラフの#8を参照)

そして、「【田原】日本がデフレで苦しんでいる間に、欧米はふつうに成長していたわけね。
【藤井】はい。日本だけが置いてけぼり、になってしまった。日本、アメリカ、ヨーロッパ、中国、その他という五つに分けて、1985年から2015年まで30年間のGDPの推移を示したのが、下のグラフです」と、示され(文末、添付の表及びグラフの#9を参照)

「・・・グラフの始まり時点で、日本のGDPの世界シェアは約20%でした。いまは6%以下。中国の半分以下で、アメリカの5分の1の国になってしまった。」と、正しく失われた30年の日本経済の凋落振りを露わにされている。
そして「最後にもう一つグラフを示します。これはいま見た30年間のうしろ3分の2、20年間の各国のGDP成長率を、高い国から並べたものです。」として以下の図表5を掲載されている。(この図は名目GDPである事に注意!)

(文末、添付の表及びグラフの#10を参照)

「世界平均は139%。中国は1400%というとんでもない成長をしていますが、・・・成熟国家・先進国、とくにヨーロッパ各国は、だいたい世界平均より下に並んでいます。・・・(が)世界でダントツに取り残されてしまった国がわが日本です。つぶれかけているんじゃないかといわれた南欧諸国すら、何十%か成長しています。いちばんダメな日本は、なんとマイナス20%成長なのです」と指摘され、加谷氏の言う、アベノミクス時代における相対的マイナス成長ではなく、“名目“では、絶対的マイナス成長であった事を如実にされている。

従って、「日本政府も財務省も、メディアも経済学者も、なぜこんなことになったのか説明すべきです。そして、日本の過去の経済政策が間違っていたことを認め、まともな政策に転換しなければなりません。」と、経済政策が施される経済構造自体の認識の誤り乃至改革ではなく、経済政策自体が誤りであったと指摘し、その上で、その「まともな政策」として、「プライマリーバランス規律をはずしたうえでの「消費税0%」が、その大いなる一歩となる。」と結論づけられているわけである。

実は、この田原-藤井対談は に掲載されている第3回目の対談で有り、その前の第2回2021/05/17付け配信の中において「コロナ禍で落ち込んだ経済を立て直すには・・・「政府は不況を乗り越えるまで徹底的な財政出動をするべきだ。財政規律にこだわる必要はない」と主張されている。

その論旨において、かの「高橋是清やルーズベルトのやり方・・・ケインズ経済学をずっと発展させた進化形ケインズ理論が、いまのMMT=現代貨幣理論。習近平は事実上MMTと同様の内容を勉強し、MMTに基づいて財政政策を展開していると言いい得る状況にあ」るとした上で、“プライマリーバランスを重視して”(T;田原発言、以下同様)と、「言い出したのは、省庁再編で大蔵省が財務省になった翌2002年、当時小泉内閣で経済財政政策担当大臣だった竹中平蔵さんです。」
“2007年にGDP比1%ちょっとの6兆円まで改善”(T)出来たのは「当時アメリカの景気が良く輸出が伸びたから。あのとき、プライマリーバランスの黒字化なんていわずに徹底的に財政政策をやっていたら、デフレ脱却ができたはず。竹中さんは誇りに思っているとしたら完全に状況認識を誤ってますね。プライマリーバランス赤字を減らすなんて最悪の手を打ったがゆえに、せっかくの輸出増という僥倖をみすみす見過ごし、デフレが続く最悪の帰結をもたらしたのです。彼は誇りに思うのではなく、痛恨の思いを持つべきなんです。
ただ、そんなプライマリーバランス規律ですが、それを少なくともいったん解除することに成功したのが麻生政権。彼はリーマンショック対策で、積極財政を展開するために、プライマリーバランス規律を解除したのです。ここから積極的な財政出動が始まり、続く民主党政権もプライマリーバランスの縛りがなかった。民主党政権は、マニフェストを全部やるといって、すごくカネを使ったんです。結果的には、これが日本経済にとってよかった。」と、やや引用が長くなったが、“モノから人への投資”を標榜した民主党政権が加谷氏の言う「民主党政権は経済政策についてはほぼ無策だった」との評価とはやや異なり、いわば、“無策の策“が効を奏した?とされる。
しかし、「第二次安倍内閣(下)・・・2013年・・・6月の骨太の方針でプライマリーバランス規律が復活しました。消費税の10%への増税も、同時に決め」、更に、「2021年1月18日、麻生財務相は財政演説で、2025年度のプライマリーバランス黒字化を目指すといった。」
「日本はまともなコロナ対策も、防災対策も、防衛対策も、そしてデブレ脱却もみな、まったくできません。・・・(そ)の責任者は誰?(T)もちろん、菅義偉内閣総理大臣であり、麻生太郎財務大臣です」と結論づけられている。

三氏の論説の引用が長くなってしまったが、筆者の理解としては、藤井氏は“失われた30年”と言うロングスパンでの批判である事から、財政再建・プライマリーバランスという一省の行政目標から、経済の良い芽が出る度に消費税増税と誤った経済政策によりデフレが“恒久化”した。依って、まず“消費税0”から、日本経済“再建”の“大いなる一歩”を踏み出すべきとされている、と考える。
これに対し、先の加谷氏・木内氏は、アベノミクス批判という比較的ショートスパンからの分析から、結論としては、基本的乃至重点的にサービス産業の生産性向上を図るべきとの考えに差異はないが、その結論に至る前提乃至過程においては、後者は、余りに長引いたデフレからの脱却に焦点を当てすぎたために異次元の金融緩和を行い“財政規律の弛緩”を招いたとされるのに対し、前者は、“バブル崩壊”の日本経済が、輸出主導型から消費酒豪型に転化している事を看過した為に経済政策の焦点の充所を間違った事が原因、とされていると考える。(その1)