マクロ経済情勢

①長期的傾向
さる9月8日に発表されたH27年4~6月期のGDP改定値は実質で前期比-0.3%・年率-1.2%と、8月17日発表の速報値同-0.4%・-1.6%から上方修正された。
これは、速報値から、化学・食料品・鉄鋼等の設備投資が0.8%下押しの前期比-0.9%と大幅に下方修正されたものの、民間在庫投資が0.2%上乗され同0.3%と上方修正された為である。
しかし、個人消費が同速報値対比0.1%上方修正されたものの-0.7%と落ち込み、また、輸出も同速報値対比改定はなかったものの-4.4%と停滞している事から、エコノミストの評価は「内容は速報段階より悪化している」との判断であり、同日の日経平均は430円以上の急落となった。
ところで、日本経済は、1990年のバブル経済崩壊以降、所謂「失われた20年」といわれる長期の経済低迷を経験してきているが、H24年末の第二次安部政権誕生以降、「アベノミクス」と称されるリフレ経済政策・日銀による「異次元の金融緩和政策」・第3の矢と称される成長戦略政策の発動により、“デフレ状態を脱却”したとされる。
そこで、正しく“アベノミクス”が発動されたH25年度・26年度2ヵ年(2013年4月~2015年3月)の実質GDPの伸び率(2015年度GDP/2013年度GDP)をみると、+1.2%となっており、その寄与率は、政府最終支出及び公的資本形成で+0.9%・民間企業設備+0.6%・純輸出+0.5%と+成長を記録した半面、民間最終消費支出は-0.4%とマイナス成長となっている。
また、連続的データーが取れるH6年度(94年度)以降の各2ヶ年の実質GDPの伸び率の平均をとれば+1.7%であり、その寄与率は民間最終消費支出の+1.1%に対し、アベノミクスにおける成長に寄与した政府最終支出及び公的資本形・民間企業設備・純輸出は各0.3%の寄与に止まっている。
一方、デフレ脱却“感”に係る価格指数をみると、GDPデフレーターは“前年度”比で、H25年度はいまだ-0.3%であるが、H26年度は+2.3%と大幅に上昇、94年度来平均の-0.9%から、確かに、+転換している。
また、日銀による金融緩和政策のターゲットとなっているCPI(除生鮮)をみると、同じく前年度比でH25、+0.8%・H26、+2.8%で、同じく94年度来平均の+0.1%から大幅に上昇し、“生活感”としては、デフレ感はもはや消失しているとも考えられる。(但し、前月比でみたCPI(除生鮮)は、今6・7月何れも±0%、今7月の対H26年度比で+0.2%に止まり、日銀目標の2%は達成不可能とみられている)
次に、“第二のバズーカ砲”と称されたH26年10月の追加金融緩和を含めた日銀の「異次元の金融緩和政策」をみると、この間、日経平均は2013年4月の13,860円から2015年3月の19,207円と約4割上昇、8月には、月中高値20,947円とバブル崩壊後“曰くある21,000円の壁”を破る直前までの上昇を見ている。
また、土地価格も、公示価格全国平均の前年比で、2014年+2.49%・2015年+2.47%と、IT"ミニバブル後のリーマン・ショック“による下落傾向から、反転上昇しており、特に、この間における都心部・商業地における取引利回りは、4%を切り3.5%水準にまで低下してきている。
更に、対ドル円レートは、2013年4月の97.4円から2015年3月の120.1円と23%の大幅な円安となっているが、株価とは違い、バブル後最安値135円を更新までには至っていない。
一方、この金融緩和の裏腹にある日銀バランスをみると、日銀保有長期国債は2015年8月で258兆円と2012年12月比+168兆円と対前年同月比平均50%弱の猛烈な増加を見せ、対象的に、銀行の法定準備預金額(平均残高)は2015年7月で9兆円弱でしかない所、超過準備を含めた準備預金平均残高は同206兆円で、この間176兆円増加している。
この(超過)準備預金に対し0.1%の付利がされているが、平均利回りが0.556%である長期国債の大量保有の結果、日銀の15年度決算は、税引前当期純利益で、トヨタの3兆円には及ばないまでも、三菱UFJと並ぶ1兆5千億円弱の利益を計上し、日本屈指の高収益企業となっている。
また、この緩和政策の眼目であるマネ―ストックの増加については、対前年比月増加率の年平均で2013年3.6%・2014年3.4%・2015年1~8月間3.8%に止まっており、国内銀行貸出金残高も、同2.6%・2.7%・3.4%とマネーストックに見合った増加となっている。
この様に、この2ヵ年のアベノミクスの推移をみてくると、確かに、資産価格・物価の上昇を伴った経済成長がみられ、“デフレからの脱却”、少なくとも“デフレ感からの脱却”には奏功していると思われる。
しかし、「失われた20年」における経済成が、「実感なき」成長と呼ばれるものであったとしたら、アベノミクスにおけるこの2ヶ年における成長は、「インフレ悪玉論」(H27・9・10、日経「日銀ウオッチ」)も飛び交い始めた「内実無き」成長と呼ばれかねない懸念も生じ始る状況となっているものとも思われる。

②直近の動き
一方、内閣府作成27年8月の月例経済報告(アンダーライン部分が27年7月報告から変えられた所。7月報告内容は括弧内)が発表されているが、これによれば、
「景気は、このところ改善テンポにばらつきもみられるが、穏やかな回復基調が続いている。
・個人消費は、総じてみれば底堅い動きとなっている(持ち直しの兆しがみられる)。
・設備投資は、持ち直しの動きが見られる。
・輸出は、このところ弱含んでいる。(おおむね横ばいとなっている。)
・生産は、このところ、横ばいとなっている。
・企業収益は、総じて改善傾向にある。企業の業況判断は、おおむね横ばいとなっているが、一部に改善の兆しもみられる。
・雇用情勢は、改善傾向にある。
・消費者物価は、穏やかに上昇している。」
とし、景気の穏やかな回復基調には変化なく、基幹となる個人消費についても小売業販売額・新車販売台数等につき弱い動きがみられるものの総じて底堅いとする一方、
「先行きについては、雇用・所得環境の改善傾向が続く中で、各種政策の効果もあって、穏やかに回復していく事が期待される。
但し、中国経済をはじめとした海外景気の下振れなど、我が国の景気を下押しするリスクや金融市場の変動に留意する必要がある。」
とし、アベノミクス効果により、雇用情勢の改善がみられる事等から、7-9月期における景気回復に対する期待を示すものとなっている。
半面、冒頭の8日の急落から、よく9日には、8月以降の世界株安の発端となった上海市場における中国政府の財政出動を示唆する声明が発表されるや否や1,300円を超える上昇を示した日経平均にみられる金融市場の変動が、実体経済に及ぼす影響への懸念を新たに示している。