Social Framework

偶々見ていた1月28日の国会審議で黒田日銀総裁が、”異次元の金融緩和”政策には”多様な手法”があり、採用する意思はないと明確に否定したその言葉の乾く間もない、翌29日に”今後積み増される日銀預け金に対し-0.1%の金利を付与する”旨のマイナス金利政策発動を表明した。
低金利~0金利が定着する中、もはや金融政策手段としてはお蔵入りとなっている公定歩合の変更、及び、現在も明確に否認されている今夏の衆・参同時選挙に必須の衆議院解散に関しては、いずれも”嘘をついても構わない”と旧来されており、メディアではあまり使われていないようだが、この実質”第4のバズーカ”は、ある程度、サプライズとして迎えられたようである。

無論、このマイナス金利の眼目は、前回のマネーサプライ2に記述している様に、”資金の市中への流通を通じた物価・景気上昇”を目指している訳であるが、その後の、国債の一部期間のマイナス化も含めた長期金利の低下・銀行の各種手数料の値上げへの動き等貸出増加に向けた動きとは見受けられず、EUの経験からも、一部には、その効果についてはや疑問が呈せられている。

このマイナス金利政策は前例のないものであり、早急な判断は出来ないと思われるが、ただ、この新規手法が採用された背景としては、当然、アベノミクス実施3年を経、現在におけるその効果を増強・持続させる為であろう。

この点、前回の伊藤元重教授アベノミクス「五右衛門風呂」説は、以下の如くである。
「アベノミクスは、株価・円安・企業収益・失業率において、名前を伏せて英語で講演すれば、どこの国かと言われるほど奏功しているが、GDPの根幹である消費・投資が冴えない為に、デフレ・マインドが払拭されず、第一の矢についで、第二の矢を放つ必要がでた。
これを、学生に説明する為に、「五右衛門風呂」を例に出すが、「五右衛門風呂」自体を知らない為に、話がなかなか通じないが、つまり、風呂の釜自体は、真っ赤に燃えた状態であり、釜に近いお湯は沸いているが、中の方の水は、20年の余りに長きデフレ状態の為に、冷え切ってしまっており、なかなか沸かないと言う事だ。」(との趣旨と理解した)

私も、五右衛門風呂には、60年も昔に祖母の家で入った経験をかすかに覚えているだけであり、昨今の学生が知らないのは当然であるが、この五右衛門風呂には、底に板が敷いてあり、その上に下駄を履いて入った覚えがある。当然、今のガス風呂とは違い、入る前には湯をよく掻き混ぜなければ、釜の廻りと中の温度は違うから入れたものではない。

とすれば、先の第二のアベノミクスの3本の矢、乃至、今回のマイナス金利政策採用は、五右衛門風呂に入る為の”湯を掻き混ぜる”作業にも比されるものかも知れない。

しかし、近時の学生が五右衛門風呂を知らないのは当然としても、アベノミクスは、日本経済が”五右衛門風呂”なのかも”ガス風呂”なのかも分からないで、”薪”に火をつけた?のであろうか

この経済の状態・経済構造について、私が大学生の’70年代当初の頃、スタグフレーションと言う事がいわれていた。これは、マネーサプライに記述したアメリカが黄金の60年代からベトナム戦争(?)により疲弊して行く中で、クリーピング・インフレーションがギャロッピング・インフレーションに加速して行く中で、インフレーション(Inflation)と景気停滞(Stagnation)が同時進行していた為、その経済構造を表す造語Stag-Flationとして生み出されたものである。

しかし、当時の経済学では、このスタグフレーションをうまく説明できる理論はなかった(と思う)また、その後の日本経済は、石油危機・列島改造計画・japan as No1・バブル経済へと変遷していき、スタグフレーションを思い浮かべる様な状態でもなかった。

従って、鑑定士試験を受ける為に経済学を学ぶ中で、このスタグフレーションが、いとも簡単に説明されているのを見て、正直、新鮮な驚きであった。

このスタグフレーションを解明する理論はAD(総需要)ーAS(総供給)分析であり、学生時代に習った件のIS-LM分析から派生・発展したものである。
即ち、財市場と貨幣市場における均衡国民所得と価格との関係を表すAD曲線と、ケインズ理論による不完全雇用下では右上がり・完全雇用下では垂直となるAS曲線を用いた以下の図で示される

 

 上図において、不完全雇用下、AD/AS曲線(黒線)がY(国民所得)・P(価格乃至物価)で均衡していた時に、何らかの要因で、AS曲線が左上方にシフトしAS'(赤線、但し、元のAS曲線と垂直部分で交わった以降は、同じ)になったとすると、YはYAS'となり前の均衡Yより小さくなる一方、PはPAS'となり元の均衡Pより上昇し、文字通り、物価上昇・景気停滞と言うスタグフレーションの経済状態となる。
一方、AD曲線が右上方にシフトしてAD'となった場合には、PはPAD'となり同じく物価上昇するが、YはYAD'となり景気拡大をする事になる。このAD曲線の上方シフトは、財政・金融拡大政策による需要増加による為に、この経済状態は、ディマンドプル・インフレーションと呼ばれる。
この点、AS曲線の上方シフトは、基本的には賃金の上昇また生産性低下(但し、この場合垂直部分も左シフトし、YFが、Yより小さくなる)等供給コスト増大によるものである為に、スタグフレーションはコストプッシュ・インフレーションとも呼ばれる。

このAD-AS曲線分析によるスタグフレーションの説明が何時頃からなされるようになったのかは、WEBで調べてみたがよく分からなかった。ただ、’78年に経済企画庁経済研究所が編集した「マネタリスト・モデルによるスタグフレーションの分析」の中には、IS-LM曲線分析はあるが、AD-AS曲線分析は見当たらない為、それ以降の概念となるのであろうか

所で、アベノミクスは、”20年にわたるデフレ”から脱却し、言わば、このデマンドプル型インフレーション・物価上昇を目途として施行されており、その際、旧来型の金融拡大政策では”流動性のワナ”に陥った状態の為、”異次元の金融緩和”がなされ、また、今回のマイナス金利政策も導入されている。(と理解している)

では、この過去20年にわたるデフレ状態とは、このAD-AS曲線分析では如何なる説明がされるのか
(長くなる為に、Social Framework2に記述していきたいと思う)

なお、この題名のSocial Frameworkとは、大学の頃に始めて聞いた言葉であるが、IS-LM曲線分析の提唱者であるヒックスの一般向けの経済学入門書の題名である(ようだ)が、経済学的にみた社会の枠組み、即ち、経済状態・経済構造として使っている。