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マネタリストの見方については、AD-AS分析が明示される前の文献として先にあげた’78年の経済企画庁経済研究所が編集した「マネタリスト・モデルによるスタグフレーションの分析」を紹介する形で見ていきたいと思う。

前回記したように,古典派では金利rは所得とは無関係に決定されるとしていたが、マネタリストはケインズの流動性選好理論、即ち、LM曲線を利用したIS―LM分析を受け入れる。
しかし、その分析は以下の図のように異なる。



即ち、ケインズ的立場では、左図の様にIS曲線が何等かの(外生的)要因によりIS1にシフトしたら、その均衡は元のLM曲線との交点YR1及びr1になるが、マネタリスト的立場では、更に、LM曲線がLM2にシフトして、その均衡はIS1LM2の交点で、r2と元のYR0になるとする。

この違いは、ケインズ的立場では先の下方硬直的実質賃金が想定され、更に、価格Pが外生的に決定されるとするのに対して、マネタリスト的立場では、実質賃金は伸縮的であり、かつ、外生的に決定されるのはYRとしているからである。

この点、IS―LM両曲線の式は以下の様に表される。

IS曲線;YR=YN/P
    YN=Q(c・r・G){=YN+I()+G+(eXmYN+)}
*YR=実質所得、YN=名目所得、Q=所得関数(通常Cと表されるが、所得Yと明確に区別する為にここではQとした)、c=消費係数、G=財政投融資額、e=為替レート、X=輸入額、m=輸入係数、b=定数

LM曲線;M/P=L(YR・r)
*M=名目マネーサプライ、L=貨幣需要関数

上記式の内、赤で表示したものは外生的に与えられるものであるから、結局、上記は、式二つに対して、内生変数がYN・P・rの三つとなる。
従って、式がもう一つ与えられるか、もう一つが外生変数として決めらねばならないが、そこで、PとYRを紫表示にしたのは、上述、ケインジアン的立場ではPを固定し、マネタリストは実質所得YRを不変として、内生変数を二つに削減し、解が決定出来る様にしたからである。

では、実質賃金との絡みで、まず、どの様にケインジアン的立場では上図の様な動きになるのかを下左図によりみる事とする。

 

小さくなり、見にくいかもしれないが、一 番上は労働市場に おける均衡を表しており、当初N0(労働力)と(w/P)0(実質賃金)で均衡していたとする。
次の図は、生産市場を表しており、N0の労働力で、生産関数FによりY0を生産しているとする。
3番目の図は、IS―LM平面であり、Y0.r0で均衡している。最後の4番目の図は,AD-AS図であるが、先のPを外生変数即ち、固定して考えている為に、先にみた右肩上がりではなく、YF=完全雇用水準までは、水平な形となっている。
そこで、上述のように、何らかの外生要因の変化、例えばGの減少等により、IS曲線が図のようにIS1に下方シフトしたとする。
そうすると、IS―LM平面上では、Y1・r1で均衡する事になるが、この時、Y1を生産する為に必要な労働力は、2番目の図からN1となり、更に、この時の実質賃金は、1番目の図から(w/P)1となる。
左側の右下がりの曲線が企業利潤最大化から求められた実質賃金が労働生産性と一致する労働力需要曲線(wD)であり、右側の左下がりの曲線が余暇と労働の効用最大化から求められた労働力供給曲線(wS)である。
今、実質賃金(wP)1では、労働力の供給が過剰となっているから、古典派的理解では、元の均衡N0・(w/p)0となるまで、実質賃金が低下する筈であるが、ケインズ的な賃金の下方硬直性がある場合には、賃金が低下せず、結果、N1で労働力が決定されるとする(ショートサイド理論)。従って、生産・所得はY1で決定され、各市場は均衡する事になる。
この時、M・P0に変化はないから、IS―LM平面上では、LM曲線はシフトせず、先のケインジアン的均衡が顕現する事になる。
このメカニズムが、「古典派では説明不能であった1920~30年代の生産活動水準の大幅な変動を説明可能とした意義は今更強調する迄もないだろう」と先の論文はしている。
但し、価格は、式を解く為に固定され、AS曲線は直角の形状をしており、この'78年当時では、AS-AD分析的説明はなされていないのが分かる。
しかし、価格pが固定される・変化しないと言うのは、前回みたように大恐慌時に25%強という大幅なデフレーター・物価の落ち込みをみている訳であり、現実にそぐわない。

そこで、以下、AD-AS分析により、上の変化をみてみたいと思う。

 

 

まず、AD曲線はIS-LM曲線から導きだされるとしていたが、AD曲線はPとYの関係である為、IS-LM曲線のうちIS曲線とLM曲線のMを固定して、Pを変化させると右下がりのAD曲線が得られる。
これは、左の3番目のIS-LM平面図で、LMからLM2へ左方シフトするのはM/Pが大きくなる、即ち、Pが小さくなる為であり、その時、IS1との交点のY1乃至Y*は大きくり、AD1が得られた事が(小さい図ではあるが)見てとれるであろう。
一方、AS曲線は、一番上のw-N図で、wを固定すれば、(w/P)1でP1が一番小さく、順次(w/p)*・(w/p)0と実質賃金が低下するにつれ、Pが大きくなり、これらに対応するNが大きくなっている事がわかる。
そして、2番目の生産関数の図から、このNに対応するYが、Y1Y*Y順次大きくなり、右上がりのAS曲線が得られている。
なお、4番目のAD-AS図で、YF即ち完全効用水準所得を均衡所得Y0等の均衡所得に対し、かけ離れた水準としている。
一般に、wDとwS曲線が交差する水準の所得が完全雇用水準所得とされるので、Y0が本来(?)のYFとなる。
しかし、上記、Pが固定されたAD-AS図との対比で考えている為にYFがY0とはしていないのだが、これは、逆に、wD曲線が大幅に右方シフトしなければYFを達成出来ない事を示唆する。
更に、これは又、大恐慌時等不完全雇用時には、完全効用時と比較して、wD曲線が、
(大幅に)左方シフトしていたのではないかとの推測もなされ得る。
では、この様なシフトを産む要因は?
この当たりが、マネタリストの議論を呼ぶ事になったのではないかと愚考するが、取り敢えず、話を元に戻すと、IS曲線が外生的に変化した時、所得がY0からY1に変化する迄では、上述、Pが固定されていた場合と同じである右上がりAS曲線の場合には、所得が変化するとPが変化する。
従って、価格がP1に低下するから、M/Pが増加して、LM曲線が、P固定の場合と違って、右方シフトする事になる
所で、外生的要因でISがIS1にシフトした時にY0からr0に向かって水平に動いてIS1に交差(交点1)するまでの距離が、減少した例えばΔGの額を示すが、この時、貨幣需要は所得に対応する取引的需要L(YR)が減少するから、投機的需要L(r)が増加しなければならない。そうするとrが低下するから、先の交点1から、垂直にLMに交差(交点2)するまで、rが下がる。そうすると、I(r)が増加する事になり、所得が交点2から、水平にIS1に交差(交点3)する所まで所得が増加する。そうすると、また、先の様に、L(YR)が増加・L(r)が減少し、rが交点3から垂直に上昇しLMに交差(交点4)するまで上がる。そうすると、I(r)の減少、即ち、所得が減少するから、L(YR)が減少・L(r)が増加するからrが下がる、と言う連鎖が生じ、結局、Y1r1、即ちIS1とLMの交点で収束する事になる。
これは、もう50年も前に、クモの巣が巻いた様な形になることからコブウェブ理論として習った事であるが、余り、最近では言わないようであり、ISがIS1にシフトしたら、無条件or簡明に次の均衡はY1・r1になるとするようである。

そして、このコブウェブ的収束過程がLM曲線がシフトする場合に生じる。
即ち、AD曲線はISがIS1にシフトすると、まず、AD1にシフトする。そうすると、右上がりのAS曲線であるから、価格がP0からP1に低下する。そのために、実質貨幣残高M(外生変数)/Pが増加するから、LM曲線は右シフトする事になる。
しかし、LM曲線が右シフトすると、IS1との交点での所得はY1より大きい。
よって、AD1は今度は右にシフトする事になる。
そうすると、このAD曲線とAS曲線の交点での価格PはP1より高くなる。
即ち、実質貨幣残高が減少するから、今度は、LM曲線が左シフトする。
そうすると、ADがまた左シフトする。という連鎖が生じる。
結局、LM及びAD曲線はY0とY1・r0とr1乃至P0とP1との間に収束し、それぞれAD2及びLM2にシフトし、Y*・r*・p*で均衡が達成される事になる。
この際、生産乃至労働市場では、Y*に対応するN*(W/P)*となっている。
この様に、AD-AS分析も踏まえて導かれるIS-LM図は、文献記載のIS-LM図とは違いLM曲線は、マネタリスト的立場の図同様、右シフトしている事になる。
但し、そこでの均衡所得は、元のY0ではなく、マネタリスト的立場のIS-LM図ではないと言う事でもある。

そこで、マネタリスト的立場のIS―LM図をみる事にする。(長くなったので、シートを新たにする。)