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前回のSF6において、IS-LM図に対応するフリードマンの名目所得貨幣数量説の基本的なfR-fL図の描き方は、試行錯誤は相当あったが示す事が出来たものと考えられる。

しかし、マネタリスト的立場のAD-AS図を描く為には、このfR-fL図がどの様に、生産市場[YR-F(N)図]を経て労働市場[w/P-N図]に反映されていくかを見る必要がある。

そこで、YRが一定のyrで成長して行く場合に、どの様な労働市場の図になるかを見ていきたいと思う。

 

 


 まず、上図は、SF6の3番目の図で示したrN-k0が一定でfR1に沿ってYNが増加して行く・名目経済が
 成長 して行く図であるが、YRについては示していなかった。

fR1fL1が交差するt1でYN1が与えられるが、これにⅢ式からPが得られる事により、YR1が決定される。
このYR1とt1の交点を通る原点からの直線の傾きがyrであるから、この直線Lyrがt2・t3からの垂線と交差する交点の縦軸の値がYR2YR3となる。

とすると、YNとYRの差がPに当たるので、t2・t3の時のPはそれぞれP2・P3となる事になる。

一方、P1の様に、このフリードマンのモデルでは基本PはⅢ式から与えれる筈であった。

そこで、Ⅲ式は、

       P=F[Π・-(XFーYN)]

と、表していたので、これを例によって、全微分して変化率をとると、

       p=απ-β(xf-yn)

となる。これを、時間推移を示す添字tを付して、差分の形で示せば

  p(t1)-p(t-1)=α[π(t1)-π(t-1)]-β{[xf(t1)-xf(t-1)]-[yn(t1)-yn(t-1)]

ここで、βの中のxfとynは、yrで成長する事から同一値と考えてよい(と思う)から0となり、

           p(t1)-p(t-1)=α[π(t1)-π(t-1)]

となると考えられ、p(t0)とπ(t0)も0と考えてよい(と思う)から、

          p(t1)=π(t1) (αもπに内包されるものとする)

となり、π(t1)が、上述のように与えられるとP1が与えられる。[なお、P1=0+p(t1)・・以下同じ]

次に、

         p(t2)=p(t1)+π(t2)-π(t1)

であるが、p(t1)とπ(t1)は上式から同値であり、p(t2)は、上のP1と上図からP2は与えられるから、求められる。よって、π(t2)はⅢ式から得られる事になる。

従って、Ⅲ式から、初期値としてのP1が得られると、上図の様に、yrが固定されていれば、その後のPは決定され、Ⅲ式はPを求める式から、πを求める式となる。

これはSF6で記してきたように、連続複利利率yrで(t3までは)成長してきたと言う事であって、それにはπと言う期待物価上昇率を想定した、と言う事である(と考える)

そこで、例えば、t4をt3時点からは将来時点とすれば、P4を求める為には、P1の様にⅢ式から求める必要があると言う事になる。

所で、P3が労働市場における均衡点、即ちYR3が完全雇用所得とした場合に、その図は如何に描かれるであろうか

 


上図の、N1・N2・N3は、それぞれ、生産市場YR=F(N)でYR1・YR2YR3に対応するNの値である。(Fは増加逓減関数であるから、YRの増加に伴いNも増加する)

このNのそれぞれの値に対応する垂線がwDと交差する縦軸の実質賃金の値がw/P1等である。
なお、w/P1等と表示しているが、正確には(w/P1)1の意であり、w/P2のP2がP1より大きい為に、w/P1よりw/P2が小さい事は確かであるが、wは必ずしも同一ではない・不定である事に留意する必要がある。

このw/P1・w/P2では、図の様に労動力が過剰供給となっており、ケインジアン的には、wが下方硬直的である為にこの水準でYRが決定され不完全雇用の問題が生じてきたが、マネタリスト的には古典派同様実質賃金が伸縮的である為に、実質賃金がw/P3まで低下して完全雇用が達成されるとする事はみて来た。

ただ、この解釈は静態的図即ち静態的均衡状態を時間的推移に沿って説明している訳であり、N1とw/P1との交点で表されるYR1も時間t1における”均衡状態”である。

この時間的均衡状態の推移を静態的図上でどの様に表すか。
フリードマンが考案したかどうかは分からないが、極めて巧妙に図示する方法が考えられ、それが縦軸を実質賃金w/Pではなく名目賃金wとするやり方である。


即ち、wを縦軸にとれば、Pが動く事により、IS-LM図上でMやGが動くとするとLM曲線やIS曲線がシフトするように、wD曲線がシフトし得るのである。

これは、w/P-N図は、N3=N*及びw/P3(即ちP3=P*)で労働市場が均衡する事を表す図であり、この時のwD曲線・wS曲線の形状がそれぞれ限界生産性dY/dN・労働の限界負効用d(-H)/dN[とする]を示すものである。
従って、このwD・wS曲線の形状を縦軸wで表現する為には、PD=P*・dY/dN、PS=P*・d(-H)/dNとする必要があり、また、N1乃至N2上で、それぞれ、PD・PS曲線が交わる図を描こうとしても、上述W1に対応するW2は不定であるから描き様がない為でもある。

更に、PSが何故シフトし得ないのか、PSが何故均衡価格P*を用いる・知り得るか。

この点、文献には、「期待仮説のエッセンスは、賃金・物価の上昇率は"市場"ではなく、企業の価格設定行動によって決まる」と言う事であるとしている。
よって、PDがシフトする事になる。但し、後で見るようにPSもシフトする時がある。
また、PSの価格がP*とN1・N2の時点からは将来の価格であり得るのは、前に記したようにyrがN*から見て把握されるものであるからである(と考える。)

従って、P*からP1の価格分左方シフトしたP1がN1からの垂線と交差する水準でW1が決定され、同様にW2・W*が決定される事になる。

ここで、留意すべきはW1=P1・dY/dN=P*・d(-H)/dNであり、P1<P*から、dY/dN>d(-H)/dNとなる。
本来、実質賃金が同一の所でNが決まると言う事は、dY/dN=d(-H)/dNと言う事であるから、W1の水準の賃金は労働力の超過需要を反映していると言う事であり、企業側がPの上昇を期待している・PDの上方シフトを身込んでいると言う事でもあり、労働者側からのPSのシフトはないと言う事でもある。

以上までで、フリード-ドマンの名目所得仮説に伴うスタグフレーションの説明を件の4連続の図で見る準備が出来た(と思う)ので、以下、見る事にしたい。

 

 



3番目のフリードマンの名目所得仮説に伴うfR-fL図が詳細になる為に、4連続でなくW-N図とYR-N図の2連、及び、AD-AS図との2連の二つに分けた図としたものを上に示した。

説明と対照しにくいので面倒かもしれないが、まず、経済状態が3番目の図のt1で均衡に達し、外生要因の変化がないのでt2においても、均衡所得YR*のままだとする。

t1の垂線上でfR1fL1が交差する縦軸の読みがYN*であり、Ⅲ式から得られるP*分下の縦軸の読みがYR*となる。
このYR*から、生産市場の2番目の図でt1に対応するN1=N*が得られ、このN*に対応するW*が1番目のW-N図から、P*DとP*Sが交差するところの値として得られる。
一方、fR-fL図から、P*が大きければyR*が小さくなり、P*が小さければYR*が大きくなる事は自明であるから、P-YR図上ではAD曲線が右下がりのAD1として描かれる事になる。

この均衡状態がt2においても持続するとすれば、3番目の図以外では変化は生じないが、前にみたようにfR線はyrが低下する為にt2の垂線上でfL1と交差する点と原点を結ぶ直線としてfR2が描かれる。このfR2fL1と交点のp*分下のYR*を示す座標と原点を結ぶ直線がyr2を示す直線となる。
ここで、この均衡が更に持続するとすれば、これも前に示したようにt3上でfR3が描かれて行くようになるが、Mがt2以降M2に増加したとする。

rN1には変化はないからL[rN1]分下方にfL2が横軸に平行に描かれる。
このfL2fR2と交差するから、ここが次の均衡状態を表すt3となる。
fL2の横軸の読みがYN2であるが、YR2を求める為のP2の値は、Ⅲ式から求める事になる。

ここで、t2の垂線上のfR2yr2との差Pは、先に述べたようにt1時点でのπ1(期待物価上昇率)が継続した場合の時間推移に伴う価格であり、その分、P*より大きくなっている。

Ⅲ式は、P=F[Π・-(XFーYN)]と定式化していたが、後者の部分は、均衡からの拡大であり明らかにPに対し需要圧力から+と判断される。そしてπの部分は、この超過需要が発生する事から、少なくともπ1の期待は継続していると考えて良いと判断する。
従って、P2は少なくともP以上の価格にはなると思われ、ここでは、やや大きいP2とする事にする。

そうすると、このP2分、YN2から下方の値がYR2となり、2番目のYR-N図からN3が得られる。

一方、W-N図上では、先に述べたようにPの上昇期待に伴ってPD曲線がP2Dに上方シフトする。
そして、このP2DN3の垂線上でP*Sと交差するから、その交点の縦軸の読みがW1Dとなる。

また、P-YR図上では、YR2P2との座標を通る直線AD2にAD1が上方シフトする事になる。
そして、(YR*・P*)と(YR2P2)を結ぶ直線・短期AS曲線がSASとして描く事ができ、これは、右上がり部分のケインジアンのAS曲線乃至実質所得貨幣数量説であるマネタリストのSAS曲線と形状的には同一のものとなる。

所で、W1DP2・dY/dN=P*・d(-H)/dN  であり、P2>P*から、先に述べたように、dY/dN<d(-H)/dNとなり、労働者の限界負効用が企業の限界生産性より大きくなっている。
従って、労働者は”賃上げ”を要求する事となり、P*SがP2Sに上方シフトする事となる。
そうすると、このP2SP2Dの交点では”実質”賃金が均衡している事になるから、その交点は完全雇用・均衡状態N*となる。この時のWをW1Sとする。

このN*に対応するYRは当然YR*であるが、3番目のfR-fL図上のM2に変化はない、従って、fL2にも変化はなく、P2=P2であるから、fL2とYR*の差、即ち、次の均衡の時の価格PよりP2は小さい事が明らかである。

よって、P2でW-N図上ではW・Nが均衡しても、fR-fL図上ではfL2とYR*の差P4まで価格が上昇しなければ、YRの均衡は達せられない事になる。
よって、W-N図上では、P4DP4Sに、PD・PS曲線が更に上方シフトする事になる。(この時のWをW*)とする。

一方、この均衡が達成されるt4までの時間・図上の位置がどこになるか。
言葉を換えれば、P2からP4までの価格上昇にどの位の時間を要するかはⅢ式からも出てこず、分からない。(何故なら、Ⅲ式自体には時間要因を表す因子がなく解析的に把握出来ないからである。但し、文献のモデルでは、Ⅲ式を4期をとる統計式に変え、そこからPの変化を推計している)
ただ、πが大きい、即ち、期待物価上昇率が高い程、fRの勾配が大きい、即ち、均衡に至る時間は早い事にはなると考えられる。

従って、fR-fL図上では、t4でP4になり均衡YR*が回復されるものとした。
そうすると、t4に対応するN4=N*として、YR-N図が描かれ、P-YR図上では、(P4・YR*)と(P*・YR*)を結ぶ垂直の線・長期AS曲線LASが描かれ、これはケインジアンの垂直部分乃至実質所得貨幣数量説マネタリストのLAS曲線と形状的に同一のものとなる。

そして、この価格P2からP4への実質所得のYR2からYR*への減少を伴った価格上昇がスタグフレーションに異ならない、とフリードマンは主張した訳である。

そして、このスタグフレーションの元凶は、Mしか変化させていないのだから当然ではあるが、YRの上昇率yr以上のMの供給・k%ルール以上の過剰なマネーサプライ供給にあるとしたのである。

文献の分析では、「昭和48・49年のインフレーション(スタグフレーション)は46~48年のMの急増によってもたらされたとする」見解が主流派であり、「46~48年度のMの実績増加率、22%・24%・21%に対する48・49年度の実績物価上昇率16%・21%及び実質成長率5%・-3%」が、「潜在成長率8%+40年代平均物価上昇率5%=YN13%程度から、M増加許容率約15%」として、分析値を基にシュミレートすれば、「48・49年度の見込物価上昇率12%内外・実質成長率2%・3.5%」となり、「48・49年度の物価上昇率の加速化の約5割(∵(16+21)/2-5≒14%、12-5=7%)が過大なMによって説明される」として、マネタリスト・フリードマンの主張を裏付ける結果が得られたとしている。

私が社会人となったのがこの昭和47年であり、初任給の5万円が、うろ覚えではあるが、49年には倍?にはなっていたのではないか思うが、正しく第一次石油ショックの時であり、1バレル1$が4$と4倍!になり、漁船の燃油対策特別貸出資金対応がされた事を覚えているし、また、最近見直し?が進んでいるようだが、今太閤と呼ばれた田中角栄氏の日本列島改造論が喧伝され、トイレットペーパーから"土地"の買い占めまで、テレビで連日放映される等の今では思いもつかないような世の中であった。

なお、今回の中国の全人代で、成長率6.5~7%という目標レンジを”受けいれる”とされると共に、マネ―サプライM2の伸びの目標を13%にする(3月15日日経Economist)とされたのも、何か因縁めいて感ぜられる所ではある。

更に、私が”近経”を勉強したテキストがサミュエルソンの"経済学”であったが、Wiikipediaを見ると、サミュエルソンはこのスタグフレーションを説明できなかった事から、フリードマン等から批判を受けて米経済学会で急速に力を失った、とされており、改めて、”時代”を感じている次第である。

話が、また、横道に逸れてしまったが、では、このフリードマン的立場からは直近のデフレはどのような解釈になるか、シートを改めて見てみたいと思う。