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SF7で見た様にスタグフレイションがマネーサプライの過剰供給による期待物価率の上昇によるものだとしたら、”いまだネーミングされていないデフレ”が、マネーサプライの”過剰”減少に伴う下図の様な経路だと想定する事は容易だと思われる。


 

そこで、この様な現象が実際描き得るのかどうかみて行きたいと思うが、今まで見てきたマネ―サプライが増加する場合に対し、減少する場合に注意を要すると思われる点がある。


 

 

まず、第一点は、上図においてMの供給の下t1で均衡していたとして、Mに変化がなければt2の垂線上においてfRと交差する事になる。
また、t1の時点においてMに増加させた場合は、fRの延長がfLと交差するt2において均衡する事になり、この時、図からは見ずらいが、yrの延長がt2の垂線上で交差する所でYR(Mの若干上)が決定される事になる。

これらの事は今まで見てきた事であるが、次にt3の時点でMにマネーサプライを減少させたとする。
Mに変化がないとすれば、t2時と同様fR'が描かれ均衡状態が続いている事になるが、Mに減少させると、fLt3の垂線上の交点と原点を結ぶfRが描かれ、ここで均衡する事になる。
更に、任意の時点txMに減少させたとするとその時点txの垂線とfLの交点と原点を結ぶfRが描かれ、均衡する事が分かる。即ち、t3t3なのである。

つまり、t1で金融緩和をしても次の均衡t2に移るのには"時間がかかる”のに対して、金融引締の場合には、任意の時点txで”すぐに効果が現れる"と言う事になる!

これは、先の文献においても「昭和48・49年のインフレーション(スタグフレーション)は46~48年のMの急増によってもたらされた」とされている様に、また、現下の異次元の金融緩和においてもその効果が発現されるようになるのには2~3年はかかるとされている事とも平仄が合い、また、YRはyrの時間推移に伴って成長・増加して行く事からも明らかであり、一方、Mを減少させる場合は、実現されるYRは既に過去において実現して来ている水準であり、時間推移を要しないと言う事である。

従って、金融緩和の持つ遅行性、並びに、金融引締の速効性が、これらの作図から確認できたものと考える。

所で、YNの水準は、rNの水準には変化ないから、MとMの差がYNとYNの差と言う事になるが、YRの水準はどうなるのであろうか。

この点、注意を要する第二の点があると思われる。

 

上図は、fR-fL図とこれに伴うw-N図を2連の形で示したものであるが、t1において、fRがfL(=YN)と交差し価格PによりYRで均衡しているとすると、w-N図上では、P*DとP*SがN*・w*で交差して均衡している事になる。

ここで、t2においてMにマネーサプライを減少させたとするとrNには変化ないからL[rN]にも変化なくMからその分下にfL=YNが描かれる。
この時、価格はⅢ式から与えられる事になるが、YNはYNより小さいから、Pよりは小さくなりPとなる、と考えて良いと思われる。

これを、w-N図で示せば、先の通り「物価の上昇率は、企業の価格設定行動によって決まる」から、まず、P*Dが下方シフトしてPDがP*Sと交差するNwで新しい・一時的均衡が達成し、この時のNはN*より小さくなっており、fR-fL図上では、t2の垂線上fRfLの交点からP低いYR<YRで均衡が達成される事になる。

そして、次の段階でP*SがPSに(企業が名目賃金を引き下げるから)下方シフトして、元の均衡w*-N*に戻る。

しかし、このPでは、fR-fL平面上では、YRが維持されるままであるから、w-N平面における労働市場及びそれに伴う生産市場での均衡状態を回復するためには、YRとYRの差の分、更に、物価が低下する必要がある。

従って、更に、PDPSP*DP*Sと、下方シフトする事により。元の均衡状態YRにfR-fL図上でも回帰する事になる(と考える)

テキストにより、PDが動くのは、所謂”情報の非対称性”から、企業者が真のPについて知り得るのに対し、労働者は知りえないからだとするものがあるが、やはり、SF7に記した文献の言う「賃金・物価の上昇率は"市場"ではなく、企業の価格設定行動によって決まる」と言う事であろうと思う。即ち、賃金・物価は市場ではなく企業側のイニシアチヴによって決定されると言う事ではないのか。
そうすると、w=PD・dY/dN=P*S・d(-H)/dNの時、P<P*からdY/dN>d(-H)/dNと労働の限界負効用が小さいから、wを企業側がw*へ引き下げる事により、P*SがPSへと下方シフトして、dY/dN=d(-H)/dNと均衡が達成されるものと考える。

一方、元のMからt3の時点においてMにマネーサプライを”急減”させたとする。
この場合も、Mに減少させた時と同じ過程を経、当初、YRに縮小した経済が、P*に物価が下落する事により、元のYRに回帰する事にはなる。

しかし、Mにした時に、L[rN]分下の所に位置するYN=fLが、元のYN=fLの位置よりも下に来る様にしている事が図で示してあり、これが、Mへのマネ―サプライの"減少”と違えた所である。

物価Pは、GDP Deflatorであり基準年度を100%として表されるから、当然、マイナスとなる事はないが、log表示の場合、物価が基準年度を下回って下落すれば、マイナスとなり得る。

従って、Mにマネーサプライを”急減”させYNがYRを下待った場合には、このlog表示ではPがマイナスになる程の物価の下落がない限り、YRがYRに回帰する事がないと言う事になる。

即ち、マネーサプライの急増がスタグフレーションを引起こしたが、マネーサプライの急減は経済の”オーバーキル”を引き起こす要因になり得ると言う事を示唆しているものであると考える事が出来る。

後で検討するが、80年代後半10%を超える増加率を示していたM2が、90・91年になると、3.6%、0.6%へと急落する。
当時、金融引締を行った日銀の三重野前総裁はバブル退治の”平成の鬼平”と喧伝されたが、旧大蔵省の行天前財務官は、「(プラザ合意に基づく円高対応に対し)内需を増やすには金融緩和しかなかった。87年にバブルの要素が出てきたがブラックマンデーがあり、引締めなんてとんでもなかった。この時に締め忘れ、後に、締めすぎてしまった」(平成27年9月16日、日経)と、率直に語り、この1985年のプラザ合意が、「90年代以降の長期デフレにつながる転機」となったとされている。

このデフレの”長期”化と言う観点からは、上のfR-fL図を見て頂くと、M乃至Mにマネーサプライが減少した後、YR乃至YRがYRに復帰する時点tを描いていない。

Mを増加させた時には、先に述べたようにyrの時間推移に伴って均衡する時点tが描かれ、また、Mを減少させた場合には即座に縮小均衡する事を示し得た。
しかし、SF7で記したように、Ⅲ式には時間的要素を表す因子は含まれていないから、Mの急増によるスタグフレーションの場合に元の均衡に復帰する時点は描けない同様、Mが減少したデフレMの場合にも、その回帰する時点は描けないのであり、更に、Mを急減させ、マイナスlogP・基準年次価格指数割れにならなければ均衡に回帰できない物価下落を要する場合のデフレMには、相当の時間推移を要する事は、当然、想定し得る事になると思われる。(この点については、また、後に触れる事とする)

以上の点について留意しつつ、一番目の図のDef-Pansionと言う現象がマネーサプライの"過剰減少”に伴うものと説明し得るのか、今まで見てきたfR-fL図の動きと関連して見てみたい。

まず、MがM乃至Mに減少させると、PのP乃至Pへの下落を伴って、YRがYR乃至YRへと減少する。
この動きは、一番目の図のYR*・P*で均衡していた経済がYRⅰPⅰへとデフレ経済に陥る動きを表す事になる。
そして、fR-fL図において、物価が更に下落し、P*P*となる事により、経済がYRに回帰する動きは、一番目の図において、YRⅰ・Pⅰから元のYR*・P*へと物価下落を伴いつつ景気が拡大・回復して行くDef-Pansionを説明する動きになっている。

これはAD-AS曲線分析において、ASの下方シフトによるDef-Pansionの説明に対応するものであるが、ASの上方シフト、即ちスタグフレーションが賃金上昇・生産性低下等コスト・プッシュインフレーションと呼ばれる様に、ASの下方シフトは逆に賃金低下・生産性上昇等に寄っていた。

しかし、このフリードマンの名目所得仮説によるDef-Pansionの説明は、スタグフレーションの場合と逆のマネーサプライの”過剰*”減少をその原因としている事は見てきた通りである。
そして、スタグフレーションの場合は、文献により、データーに基づき実証的に検証されている事も見ている。

この過剰の意は、マネタリストの言う成長通貨以上のマネーサプライの供給がスタグフレーションの原因であった事同様、成長(率)減少を超えるマネーサプライの供給減少の意であり、Mへの急減少と言うYNがYR以下になる減少の意ではない事に留意してほしい。

では、このDef-Pansion乃至20年に渡るデフレもこのマネーサプライの過剰減少がその原因だったと言えるのであろうか。

実は先に記した92年におけるM2の対前年比0.6%の増加率が最低の増加率であり、マネーサプライ自体が減少した事はないのである。

マネーサプライのシートで記した通り、日銀は2008年に統計の見直しを行い、名称もマネーストックと変更しており、日銀統計から昔のマネーサプライ残高を見つける事が出来ず、内閣府の長期経済統計から、1967以降2010年迄の他の経済指標とconsistentなデーターを見つけた。
これによれば、同年間におけるM2の平均対前年比増加率は8.1%であり、最高が先にみた文献同様1972年(昭和47年;私が社会人となった年)で(文献と若干数字は違うが)26.5%であり、最低が、先の通り92年の0.6%となっている。

従って、スタグフレーションの場合と違い、マネーサプライ(残高)の減少がDef-Pansionの原因とは理論的には言えても、実証的には言えない(少なくとも、その主因と言えない)と言う事になると考える。

そこで、AS-AD曲線分析同様賃金・生産性等の変化がフリードマン的名目所得仮説の下でもDef-Pansionの原因となり得るのかを見てみたいと思うのだが、その前に、先の長期的経済統計によりフリードマンの名目所得仮説によるfR-fL図等を見てみたいと思う。(シート改める)