Social Framework11

フリードマンの名目所得仮説の下、マネーサプライ残高の減少が、デフレ下の実質経済成長"Def-Pansion"を惹起する事はSF8で理論的に言い得る事をみたが、1970年以降2010年迄の日本の実体的経済においては、マネーサプライは、その対前年比増加率は減少する事はあっても、マネーサプライ残高そのものは減少しておらず、至って、Mは増加するもののYNは減少して行き、歳出と歳入の乖離に係る、所謂、”鰐の口”同様の、”第二の鰐の口”が開いているのを、SF9で見た所である。

そこで、まず、ケインジアン的AD-AS分析の下、生産性の上昇なり下方硬直的賃金の低下がDef-Pansionを惹起する事をSF10で見た所であるが、それらの要因が名目所得仮説の下でも同様にDefーPansionを惹起するか見て行きたいと思うが、上述、"鰐の口”が開いている時に、物価は、そもそも、どの様な動きをするのであろうか。

SF5のⅢ式で記したように、フリードマンの名目所得仮説においては、Pは、期待物価上昇率Π及び需給ギャップで決定されるとしており、後段の需給ギャップ要因は、YNが減少して行く場合には、基本、Pに対するマイナス要因として働くのではないかと思われるが、Πの働きにより、まず、Pが変わらない・同水準を維持するものとする。

そうすると、"鰐の口”が開いているから、YNの減少につれ、それと平行してYRも減少して行く事になる。
しかしPは変化していないから労働市場w-N平面ではPD曲線は変化する事はない。
そうすると、YRが減少して行くにはPSが連続的に左シフトして行かざるを得ない事になる。

このPSの左方シフトは、確かに、SF7で見たようにスタグフレーションの原因であったが、PSの左方シフトは、SF8で見たように、「賃金・物価は市場ではなく企業側のイニシアチヴによって決定される」ものである以上、PDがまず右方シフトした後に、労働市場の均衡を回復する為にシフトするものであった。
もし、そうでなかったとしたら、安倍首相がアベノミクスの成果の均霑、トリクルダウンの為に、あれほど経団連・財界等に依頼・圧力をかける必要もなかった筈であろう。

ましてや、”鰐の口”が開いている状態で、PがΠの働きにより上昇して行くと言う事は、fR-fL平面上ではPが同一水準以上にYRが減少して行くと言う事になる半面、w-N平面上ではNが増加、YRが増加して行くと言う矛盾が生ずる。

よって、"鰐の口”が開いている経済状態では、必然的に、需給ギャップ要因なりΠの下落からPが下落して行き、"通常"では、YRが同一水準に保たれる、と言う事になるものと考える。

これを、(動きの説明は略するが)示したものが以下の(二分割した4連)図である。

 

 

上述から、フリードマンの名目所得仮説の下に、実体経済を反映したfR-fL平面において、賃金乃至生産性がDef-Pansionを惹起するか否かの検討に於いては、YNが連続的に低下する場合において、Pが低下する事により経済の均衡が保たれる、YRが一定、水平である事を前提とする、しなければならないと考える。

 

 

左の4連図は、このYNが低下して行く場合に、賃金・生産性等に変化がないとすれば、t1・t2・t3において、価格P!・P2・P3でYRで均衡している。この時、これらの価格は、各tの垂線上のYNからYRまでの距離となっており、w-N平面上では、PD1とPS1,PD2 とPS2、PD3とPS3のそれぞれの交点がNの垂線上にあり、YRで経済が均衡する状態になる。ここでt1の時、賃金の低下が起こりPSがPS1にシフトしたとしよう。
この際、PDはまだ変化していないので、w-N平面では、N1で均衡する事になる。そうすると、Nが増加しているので生産市場での生産が増加してYR1となる。一方、fR-fL平面上では、先の通り、YRを維持する為にP1への価格低下が起きている筈であり、これに伴いPD1へのPD曲線のシフトも起きる。しかし、賃金引き下げによりPSはPS1 に既にシフトしているから、賃金の更なる引下げがないと、元のYRで均衡してしまう事になるとすると、企業は更に賃金を引き下げP S2にPS曲線がシフトすれば、労働市場ではN1での均衡が維持される。しかし、PD1での価格P1では、fR-FL平面上ではYRが維持されたままであるので、ここで、企業はP1'(t1の垂線上でYNとYR1との差)に価格を引き下げる。従って、PD1はP1'Dに下方シフトする共に、PS2もP2'Sに下方シフトして、”経済”が均衡する事になる。この最後のPS曲線のシフトは、賃金を引き下げた事によるシフトではなく、Pが下がった事により、経済が均衡する過程で下がったものであり、言い換えれば、P2'S=P1'*(-dH)/dNとなっている。そこで、賃金はwからw1まで、当初の引き下げ幅(PDとPS1の交点の水準)以上に下がって均衡する事になる。
同様に、t2乃至t3に至る過程で、賃金の引き下げが先に行われると、労働市場での均衡がN2・N3へとそれぞれ増加する事から、YR2・YR3へと実質経済が拡大し、物価がP2'・P3'へとそれぞれ低下し、P2'D・P3S及びP3'D・P4Sへと下方シフトする事で経済が均衡する事になる。(PSの添字を大きくしているのは、賃金をまず引き下げた事を表す為である)この一連の経済の均衡過程をP-YR平面に表すと、第四図のようになり、賃金を先に引き下げないでいれば、AS曲線はLASと垂直の形で描かれるが、賃金を先に引き下げるとAS曲線は(P1'・YR1)と(P2・YR)を結ぶSAS1として描かれる。また、AD曲線は(P1'・YR1)を通るAD1として描かれる。同世に、SAS2・SAS3並びにAD2・AD3も描かれる事から、均衡状態からの賃金引下げがDef-Pansionを惹起する事が示された。
しかし、この賃金引き下げを誘因とするデフレ下の実質経済拡大は、”鰐の口”が開いたYNの継続的低下がある中では、Pの低下によりYRが均衡・定常状態を保っているのが"本来”であり、t2に至る過程で、まず、賃金を下げないとすれば、P1'はP2に、N1はNに”戻る”(この時、PD2・PS2へとシフトする)筈のものである。
これは、Def-Pansionは本来のデフレ・物価低下を伴う実質経済の縮小を経てしか、本来の均衡状態に戻りえない事を示しており、Def-Pansionnによる経済拡大が続けば続く程、その揺り戻しが大きいであろう事を示しているものと考える。
では、次に生産性の上昇がどの様に作用するかを見てみよう。

 

一番上のw-N平面図が錯綜して申し訳ないが、t1で生産性に変化がなければ、t1の垂線上のYNとYRの差P1の価格で、労働市場では、P1DとP1Sの交点Nで、経済の均衡が維持されている事になる。しかし、このt1の時点で、生産市場でF(N)がF1(N)に上方シフトしたとすると、SF10のケインズ的立場における生産性上昇の時の様に、PD曲線がP1 D'に上昇シフトする。そうすると、労働市場における均衡は、P 1Sとの交点N1に増加するから、実質生産もYR1に増加する。結局、実質生産は、生産性の上昇及び、これに伴う労働インプット増加による二重の増加をしている事になる。この時、fR-fL平面上では、P1に変化ないとすればYRにも変化がないので、YR1 となる為には物価がYNとYR1との差P1'に下落する事になる。このPの下落に伴い、労働市場では、PD及びPS曲線がP1'D'・P1'Sと更に下方シフトする事により、N1の均衡が維持されYR 1での経済全体の均衡が保たれる事になる。
一方、これら一連の動きの中で、P-YR平面では、まず、AS曲線が生産性性が上昇する事により、LASからLAS1に右方シフトする事になる。また、価格がP1'に下落する事に伴い、AD曲線がAD1に下方シフトする事により、経済全体の均衡状態が示される事になる。そして、t2以降、さらなる生産性の上昇がなければこのLAS1上でAD曲線が段階的に下方シフトして行く事で、N1・YR1 での経済均衡が保たれて行く事になるが、生産関数がF2(N)・F3(N)と連続的に上昇すると、上述の過程が繰り返され、L AS2・LAS3とAS曲線が更に右方シフトして行き、”未だネーミングされていないデフレ”、Def-Pansionが示現されて行く事が示される。
以上の様に、フリードマン的名目所得仮説の下でもケインジアン的AS-AD分析同様、生産性の上昇がDef-Pnsionを惹起する事が示されるが、上の賃金低下の場合と異なり、生産性の上昇の場合は、AS曲線が右上がりの形のSASとは成らず、垂直のLASの形となる。従って、賃金の低下に伴うDef-Pansionで経済が長期”均衡を回復する際には、長期のDef-Pansionであればある程、大きなデフレ、物価下落を伴った実質経済の縮小が不可避になるが、生産性上昇の場合には、AS曲線は長期安定的であり、生産性上昇の程度に応じ、経済は物価は下落していても、経済は”長期”的均衡状態のまま推移しているので、生産性の連続的上昇が止まったとしても、物価が下落はするものの、実質経済は均衡を維持する、という大きな相違が見出される事になる。