Social Framework13

フリードマンの名目所得仮説の下において、マネーサプライが上昇する場合において、賃金の低下乃至生産性の上昇により、デフレ下の経済拡大Def-Pansinが生じ得る事を見てきたが、賃金低下の場合には経済が均衡を回復する過程において、本来の急激なデフレが生じる可能性がある為、現実経済の動きからは、生産性の上昇によるDefーPansionの方がより説明力があると(このフリードマンの仮説の下では)考えるのが自然かと思われる。

そこで、現実経済の下において、実際、生産性の上昇がどのような経過をたどっているかを見てみようと思うが、その前提として生産性を如何に定義するかと言う事で、ネットをみると、『東海大学紀要政治経済学部第41号(2009)「人口減少と生産性増加策」小崎敏男』という論文があった。

ここでは、
      GNP/総人口 = (労働者数/総人口)/(GNP/労働者数)
という式が示され、「右辺第二項が、労働者一人当たりどの位の付加価値(労働生産性)を生み出しているかを表している」とし、この式から、「わが国が直面している労働力減少下の豊かさの具現策は、労働生産性を引き上げるか乃至は外国人への労働市場への開放により労働者数を増加させるかのいずれかである」と、その論文の冒頭に記載されている。

上の式の左辺は、per-capitaのGNPであるから「豊かさ」の”象徴”ともいえるが、この両辺に総人口をかけると、
    GNP = 総人口  * (労働者数/総人口)/(GNP/労働者数)
となるから、GNPは確かに、総人口の減少により減少する事が示され得るが、更に、右辺の総人口を掛け合わせれば、
       GNP=労働者数*(GNP/労働数)=労働者数*生産性=N*S≒YR
となり、この式をNで微分し、各々の変動率を小文字で表せば、
          yr = n + s
となる。

更に、YR = YN / Pであり、その変動率は、yr = yn -pとなるから、
          yn= p + n + s
と表される。

そこで、労働者数を、総務省統計局の長期データーにある就業者数として、1990~2010年間のそれぞれの変動率を求めたのが以下の表である。

 

 

 


上の左表の平均で、この20年間に実質経済は年1.2%ずつ拡大しているが、其れは、生産性の上昇1.0%によっており、労働者数は0.1%の微増であり、未だマイナスではないものの上記論文の題名通り、人口減少時代に対しての生産性増加策が重大経済施策となる事が分かる。

そして、右表の物価の年平均下落率は0.5%であり、また、年毎推移を見ても物価下落の年が圧倒的に多く、デフレ下の経済拡大Def-Pansionとなっており、その経済拡大要因は生産性上昇に寄っていた事が見てとれる。
また、、名目経済は、年平均0.7%の成長を示しているが、98~9年代の消費税増税・2001~2年のITバブル崩壊・2008~9年のリーマン・ショックの時期には、名目GDP自体がマイナス成長となり、SF9で見た"第二の鰐の口”から舌がチョロチョロと伸びている図になる事が分かる。

一方、上記論文の分析においては、生産関数にコブ・ダグラス型
       Y=A*K^α*L^(1-α)
を複雑化した
      Y=A*K^α*(hL)^(1-α)
を基本形として用いている。
ここで、Y=GNP≒YR、A;技術乃至全要素生産性(TFP)、K;資本ストック、L;労働(力)、h;一人当たり労働時間、α;資本の所得シェアー、である。

ここで各変数は時間に対する関数とされ、上式の対数を時間で微分し、dY=y等と表示すれば次式となる。
        y/Y-hl/hL=a/A+α(k/K-hl/hL)

ここに各種データーを投入し、生産性の測定を行っているが、それらの内、表形式で記載されているのが以下の表である。



上記分析の期間は1970~2005年間であるが、マクロ(すべて)を見れば、70年80年代の成長率4~5%が、90年第以降は1%強の低成長となっている事が分かるが、この成長の基本は資本量の増加にあり、90~00年を除けば、TFPが次に主要な寄与をしている。

労働は、90年迄は1%程度の寄与をしていたが、90年代以降はマイナス寄与となり、その程度を時代区分ごとに大きくしている。
ここに人口減の影響が表れている、と言う事だと思われるが、見ての通り労働・資本共にその量の寄与と質の寄与を分解して表示されている。

この両・質の分解をモデル式で行ったのか測定上行ったのかは明瞭に示されておらずよく分からないが、表からは、労働・資本共に、その量の±寄与の度合いが大きい事が分かる。

ところで、”Capital in the 21st Century"には、主要各国の成長率・人口増加率を示す以下の表がある。


この表の1970~2010年迄の期間において、最も高いper-capitaの伸び率を示したのは2%の日本である事が分かるが、日本の2.5%の(NationalIncome≒)YRの伸び率より高い伸びを示したオーストラリア・カナダ・アメリカは、その人口伸び率が、日本の0.5%の2~3倍になっており、per-capitaと人口の相ともなった増加が、その経済成長の源となっている事が示されている。
ここに、上記論文が、”外国人への労働市場への開放により労働者数を増加させる”必要性を謳う由縁があると思われる。

では次に、現実の経済における賃金が如何なる推移を経ているかを見てみたい。

今まで見てきた4連図における経済は、古典派的世界であり、そこでは1財経済・単一の投入要素である労働・完全市場と共に、生産者の利潤極大並びに労働者の効用最大化がその行動原理として想定されている経済であった。

かかる経済においては、
  Π(X)=PX-wN;Π=利潤、X=財、P=財価格*W=賃金(率}*、N=労働
ここでPは完全市場から定数・も実質賃金が労働市場均衡から定まれば、Pが定数であるから定数

と、すれば、このπを極大化する様に想定により生産者は行動するから、Nで微分し1階の極大化条件を取れば、
           P*dX/dN = W
を得るが、これが、生産者の労働需要曲線であった。

一方、労働者の効用最大化想定から、労働の供給曲線が得られるから、労働市場における均衡NをN*とすれば、
       P*dX*/dN* = W ;生産関数X=F(N)から、F(N*)=X*
となる。

そこで、0~N*まで、上式を積分すれば、
       PX* = WN* + C;Cは積分定数となるがπ*に異ならない

従って、*を取り去り、P・wも想定より定まる任意の定数、即ち、変数として、各々の変動率を各小文字で表せば、
     p + x = w + n
を得るが、単一財市場想定から、x = yr に他ならないから、結局、
       yr = w + n - p
と、かかる(強力な)想定化の経済においては、賃金変動に係る関係式を得る事となる。

しかし、実際の賃金統計ではこの様なWを探すのが容易でなく、「名目雇用者報酬(2.4)94年総計495612.2」なる数字を使う事として、得られたものが以下の表である。
 

 

賃金統計のavailabilityから、数字は95年以降のものとなっているが、平均でyrは年平均0.9%の伸び率を示しているものの、pは年平均マイナス1.1%であり、Def-Pansionの形となっている。そして、wは+を示す年もあるものの、年率平均0.4%の低下を見せている。
よって、一応、賃金低下⇔Def-Pansionとの関係は認められるとも考えられるが、生産性にかかるデーターとは違い、yr(0.9%)とそれに対応する数値との合計(0.6%)の差が大きい。
そこで、これらデーターの回帰分析を行ったのが以下の表である。

 

 

表から、R^2は0.5程度しかなく、各変数のP値も大きいので、この回帰式は、あまり意味を持たないと考えられる。
一方上の生産性に係るデータの回帰分析の結果は以下のようになっている。

 

 

 

 

上の表が生産性データーの左側の表、下の表が同右側の表に関わるものであるが、何れのR・R^2も高い相関と決定係数を持ち、また、いずれの有意F・各変数のP値もほぼ0に近い値であり、これらの回帰式が十分に意味を持つ事が分かる。
更に、各変数の係数もほぼ1に成っている事が注目される。

ところで、先の”Capital in the 21st Century"の著者であるT・Pikettyはその本の中で、彼がThe first fundamental low of capitalismと呼ぶ、
α = r * β 、α=資本利益 / YR(=national income)、r =資本利益率、 β=資本(≒国富) / YR

と、 The second fundamental low of capitalismと呼ぶ、
    β = s / g、 s=貯蓄率、g=成長率
とには、大きな違いがあると言う。

其れは、資本主義の根本原則第一が、純粋な(国民所得)会計上の恒等等式であり、いつでもどこでも成り立つものであり、国民所得における資本利益のシェアーの定義式である、のに対し、
その第二原則は、asymptotic law、即ち、漸近法則であり、一定の重要な想定の下に、長期において成立するものである。― sとgが一定の定数である事を前提とし、βに収束するものである、と言う事である。

確かに、YRにおける資本による所得=利益のシェアーは、
  資本利益/YR = 資本利益率 * 資本 / YR = r * β = α
であるから、第一原則は恒等式乃至定義式でしかない。

一方、第二原則については、その付録の中で、以下のように導出している。
資本乃至国富が、国民所得からの貯蓄によってしか蓄積されない物として、t+1期における国富W(t+1)は, 
        W(t+1) = s * YR(t) + W(t)
と表されるから、両辺をYR(t+1)で除し、YR(t+1)=(1+g)YR(t)である事に留意すれば、
       β(t+1) = { s + β(t) } /(1+g) = β(t) * { 1+ s / β(t) } / (1+g)
となるが、このβは、{1+s/β(t) }が(1+g)より大きければ拡散するし、小さければ0に、長期間の内になる。
よって、βがある一定値に収束するには、
        {1+s/β(t) } = (1+g)
即ち、
          β = s / g
になると論じている。

翻って、生産性の式を見れば、YRをNで除して生産性と定義したものに、また、Nをかけ戻したにすぎないから、明らかに第一原則同様の定義式乃至恒等式に他ならない。
従って、現実経済データーを用いて、その回帰分析を行えば、当然、高い相関・決定係数並びに1の変数係数が得られた訳である。

一方、賃金の変動率に関わる関係式は、完全市場・1物1投入要素(労働)等のcrucial assumptionの下に成立する訳であるから、現実経済データーを用いて、その回帰分析を行えば、当然、相関関係・決定係数等に有意を認め難い物になる訳である。

上述、上記論文の分析においては、生産関数にコブ・ダグラス型を精緻化したモデルが用いられていたが、このコブ・ダグラス関数は、Pikettyの同本の中には、Charles CobbとPaul Douglasにより、1928年に提唱されたものとあるが、現在においても幅広く利用されているのは、式で展開したように対数を取る乃至その後微分すれば、簡単な線形結合式に定式化が出来、その後の現実経済データーを用いた統計的分析に利用しやすい、と言う事だと思われる。

そこで、生産関数自体はF(K・N)とかける・生産物は(少なくとも)資本と労働の投入から成り立っている・生産物と資本・労働との間には因果関係がある、とは言えても、その生産関数F(K・N)がK^α*L^(1-α)であるとは証明できない・Fとコブ・ダグラス型に因果関係があるとは(必ずしも)言えず、其れは、現実の現実経済データーを用いた統計的分析により、その"有用性”を示す、また、現実にその有用性を示してきたが故に現在も重宝されている、と言う事だと考える。

この点はアベノミクスのメンターと称される浜田宏一氏が、RBCモデルの創始者であるエドワード・プレスコットの方法は「計算機でモデルを複数作り、実際の経済の動きに最も似ているモデルが一番いいモデルだと後付けで言っている様なものだ」と感じた、とその著書「世界が日本経済をうらやむ日」(P182)で書かれ、その方法は、「(因果関係の)推定"estimation"ではなく、数値階の当てはめ(相関関係の)”calibretion"」だったのであると書かれている。

また、フリードマンの名目所得仮説を基に理論分析・モデル分析を行った、’78年の先の経済企画庁経済研究所が編集した「マネタリスト・モデルによるスタグフレーションの分析」の中には、その統計的分析は、実は、「総支出関数,名目GNPの変化がマネーサプライの変化,輸出等の変化,租税負担率の変化の3つの外生変数によって決まることを示している。この関数は誘導型(reduced form)になっており,元の構造方程式の形については何も述べていないのでケインズ体系とマネタリー・アプローチのいずれとも両立するものである。」とも書かれているのである。

そこで、今まで、マネタリスト的立場からのDef-Pansionの分析は、フリードマンの名目所得仮説を基に行ってきた訳であるが、この仮説の前提は、SF5で記載している様に、『「経験的には1以上である事が分かっているが、短期の変動を取り扱う為に1と仮定しても大きな問題はない」と考えて、「実質所得が増えた時の貨幣需要の弾力性を1」と仮定すると、LM式は以下の様に書き替えられる。
      LM曲線;M/P=L(YR・r)⇒ M=YN・L(r)

』と言う事から来ている訳であった。

当然、今まで分析の対象としてきた1970~2010年と言う期間が短期である訳がないから、このフリードマンの名目所得仮説が成立するとの想定の下で行ってきた、種々のデーターの”分析・解釈”は、モデル自体の分析・解釈とは別途、意味がない、と言う事にもなるかと思われる。

無論、’78年の上記論文の分析期間も昭和46~51年の5カ年と言う期間も”短期間”と想定しづらいと思われるが、その統計的分析に用いた枢要な総支出関数が、上記、「ケインズ体系とマネタリー・アプローチのいずれとも両立する」とある故、この論文のデーター分析には意義があると言う事にはなると思われる。

この点、SF9での図示により"初めて”姿を現した「第二の鰐の口」について、フリードマンの名目所得仮説が成立しているとすれば、マネーサプライとYNが開く・口が開く事は、L(r)即ち”貨幣の投機的需要"が増大すると簡明に”解釈”する事が可能であるが、上記、M=YN・L(r)が、長期的には成り立たないとすれば、事は、簡単でなく、その解釈は取る事は出来ない事になる。。

但し、「第二の鰐の口」の図自体は、単に、マネーサプライ・YN・YRというデーターの対数表示をしただけなので、如何なる経済現象でそうなったかは別途、”鰐の口”が開いているのは事実なのである。

なお、かつ、YNが減少して行く中で、YRが増加して行くならば、P即ち物価が下落して行く、def-Pansionに陥るのは、YR=YN/Pと言う恒等式・定義式から自明の事なのである。

YRを一定とすれば、N・人口が減少すれば生産性が上がるし、人口・Nが増えれば生産性は当然低下する。
逆に、移民労働者*を国内労働市場に導入すればYRが増加するとは単純には言えない。何故なら、生産性が減少する可能性がないとは言えないであろうからである。

*我が家ではパピヨンを飼っているが、もう16才になるので、最近一時危なかった。今は、元気を取り戻してるが、
     HL=D*HL/D、HL=家計(規模)、D=飼犬数、HL/D=(飼い犬)生産性
とすれば、飼い犬を増やせば、HLが大きくなるのか、ー 我が家の収入が増えない事は自明であろう。

従って、何故人口が減少するのか、何故生産性が上がっているを究明する事が重要なのである。

企業融資の審査に当たって、取引先企業売上が年々減少しているとすれ、それは重大深刻な懸念要因となり、徹底した調査・分析が必要となる。。

一国の国民所得会計において、YNが減少している事自体の究明を十分になさず、単に、Pが下落しているからPを上げればいい、と言う事だけであれば、”皆さん飼い犬を大事にしましょう!飼い犬を増やしましょう!"と言う、平成の”生類憐みの令”に堕するのではないかとも思う次第である。