乗数効果その2

所で、先に掲載したグラフの所得Yの単位は何になるのでしょうか
これが、laymanたる所の不明の極みであり、GDP500兆円・公共投資20兆円等だとばかり思っていたのですが、”魚の目から鱗”で、(新)古典派経済学ではフィシャ―の(交換)方程式vm=py,ケインズ経済学ではm=L(y・r)まで、貨幣mは登場しません。
従って、乗数効果は、飽くまで、実物経済・財市場における均衡について論ぜられている訳で、所得yの単位は、円やドルではなく、例えば、それは、リンゴ10億個という実物の量になる訳です。
*v;貨幣の流通速度 p;価格 r;利子率 L;貨幣需要関数
 ちなみに、rは、上の例えでは、例えばリンゴ1百万個という実物量で考えている事になる。

無論、一国の経済を想定する場合にリンゴ何個で把握する事は無いでしょうから、多分、マクロ生産関数x=F(N)同様、一国を代表する財xを前提すると言う事であり、具体的には、購買力平価を算定する場合の様に、財バスケットを想定する事になるのではと思います。
*x;財(=所得y) N;労働(投入量)

しかし、乗数効果の測定に当たって実際に用いられている単位は、統計的手法に当たっては当然金額ベースのデーターを基にしている訳ですし、理論モデルの場合は、GDP何%の公共投資に応ずる乗数の把握等、やはり、金額ベースを基にしたモデルを使用しているのだと思います。

乗数効果は、外生的に投下された需要が、生産・所得となり、次段階の需要となって行く一連の段階による効果な訳ですが、この際、(代表的な)一財(乃至は財の個別性を捨象した金額ベース)での話であれば、この一連の段階は一定の”周期”が、当然、想定され得ると思います。

しかし、現実の経済で投入されるものは、この様な一財ではなく、例えば、鉄筋・コンクリート等であり、民主党政権下では、”物ではなく人への投資”と言う事が喧伝された訳であり、それぞれ、個別的な財でしかありません。

この点、先の通り、検索した限りにおいては、個別の財投入による乗数効果を実証的に測定したデーター・論証は見つける事は出来ず、wikipediaには、’90年代において公共投資の乗数効果が低下した原因は、民間部門でのマイナスの乗数効果が働いていたためとの記述がみられます。

一方、同wikipediaには、乗数効果と波及効果の違いが記述され、後者は、”投資が投資を誘発する現象”だとされます。

ここで、ケインズ流財政政策についてよく言われている、”穴を掘って、埋め戻し”ても、その(乗数)効果はあるのか、という問題があります。

これに対する明確な解答をまだ見た記憶は無いのですが、一概に、効果がない事は無いが、より”生産的”な物に対する投入が好ましい、というものではないかと思います。

6月25日付の日経・大機小機には、”エコノミストが輝いた時代”と題し、’60年、当時の池田隼人首相の下、所得倍増計画を立案・推進した下村治氏の偉業の事が記載されていました。(余聞ですが、訪仏した池田首相を、当時のド・ゴール大統領は”トランジスターのセールスマン”と揶揄したと子供心に記憶しています。TPP交渉において更なる農作物輸入を迫るオバマ大統領を、彼であれば何と呼称するのでしょうか)

また、同じ日経6月29日付の前独連銀総裁A.Weber氏のインタビュ-記事で、氏は”90年代の世界の物価上昇圧力が低くなった主因は、中国の世界経済への参入を始めとするグローバル化”だとしています。

私も、’03年当時、上海を訪れた事がありますが、現地のローカルスタッフから、浦東にある事務所ビル群を眺めながら、10年前には何もなかったと話された事を覚えています。(その後の、日本を抜いての世界経済第2位への大躍進、そして現在の経済及び政治の状態。世界の変化の速さには驚かされるばかりです。)

確かに、日本も戦後の焼け野が原の状況から、朝鮮戦争特需・ベトナム戦争特需と言う外生的需要が、Japan as No1と呼ばれる時代に向けて大いなる”乗数効果”を発揮した事は間違い無い事とは思いますが、それは、理論としての乗数効果そのもの発現であるのか
この点、先のwikipediaでは、乗数効果は敢えて言えば、波及効果の一種であると記述されてはいますが

現下のギリシャ問題をおけば、3年来のアベノミクスは、少なくとも、株価を”曰くのある21,000円”の壁の前までの上昇をもたらした事は事実です。

アベノミクスの第二の矢である"機動的"財政政策との関連で、乗数効果そのものの分析、ひいては、アベノミクスの成否を、エコノミストの方々が論ぜられる事を期待している所です。