コロナウイルスその10の2,補論

前略
8月5日に「4月7日緊急事態発令評価~休業補償は待ったなし!」と題したメールを送付しましたが、その直後、 8/5(水) 10:11AERA dot配信の『「8割おじさん」西浦博教授の北大→京大移籍は御法度?』という記事と 8/6(木) 5:56デイリー新潮配信の『コロナ禍に菅官房長官が狙う「湘南美容」利権 幻冬舎・見城社長が繋いだ関係』と言う二つの記事を眼にしました。

もし、この記事のあらましがそのままの通りだとすれば、正しく、8/5のメールにおいて述べていた事と直接的な繋がりを持つ内容であり、補論として以下メールします。

まず、前者、AERA dotの記事において、
京都大学大学院教授(社会工学)の藤井聡氏はこう批判する。 「政府の誤った感染症対策によって、日本経済は疲弊し、倒産や失業が激増しました。西浦氏はその科学者責任を最も負うべき人物の1人だと思います。実は、新規感染者数は3月27日をピークに減少に転じていました。緊急事態宣言が発令された4月7日時点ではその事実がわからなかったと思いますが、4月末には専門家なら誰の目にも明らかでした。緊急事態宣言や8割自粛は、少なくともピークアウトには不要でした。しかし、西浦氏や専門家会議は政府に緊急事態が解除できる可能性を示唆せず、延期を支持したのです。政治判断に必要な情報を提供しなかったのは、専門家として怠慢と言われても仕方ありません」
と述べられている。

これを、8/5既メールで引用した同教授の「8割自粛で感染が減ったという明確な統計学的証拠はない(緊急反論②)の中での、
「西浦氏は、本文のグラフに示してあるように、(4月7日以前の)3月下旬から4月上旬にかけて大きく下落する実効再生産数を推計している・・・筆者・・・経済をガンガン回して大丈夫かどうか等を論じているわけではありません・・・そういう話とは別の話として、ただただ「4月7日の8割自粛要請に効果があったのか無かったのか」という一点だけを論じているのです。」
と、述べられている事と比較すると、明らかに、「3月下旬から4月上旬にかけて大きく下落する実効再生産数を推計しているノニ、4月7日の8割自粛要請ヺシタ」と言うトーンが、「4月7日時点ではその事実がわからなかった」と変化しており、先の緊急反論②が事実上後付けR値を基にした議論である事を認められていると思います。
それは、実は、8/5メールで掲載した件の5/12日版R値の測定グラフは、池田アゴラ研所長の「緊急事態宣言は壮大な空振りだった」(5/15)に載せられていたグラフを示したものであり、藤井教授は、先の緊急反論②では以下の“加工”されたグラフを掲載されている。


このR値グラフの説明として、1>Rであり、“8割自粛”は「無駄かつ不要」と明確に書き込まれているのである。

そして、今回は4月末には専門家なら誰の目にも明らかでした、と述べられているからである。

しかし、8/5メールにおいて引用した5/7メールに掲載の以下のグラフについて


『このグラフは、5/7既メールの通り「4月22日提言に掲載されていた」ものである。』と書いており、「提言」を見た方であれば、“3月末~4月初”におけるピークは、4月末にはではなく、4月22日には共有された事実となっていた筈である。
そこで、逆に、「4月末」に如何なる情報が共有されていたかと言えば、8/5メールに一部引用した5/7メールにおいて、
『5月1日の専門家会議の話し・・・で尾見理事長(が)・・・4月7日の緊急事態発令前夜の総理会見で説明が行われたSD8割により、感染者数は増加から“明確な減少”には入っているが、「期待通り」ではなく、今晩(5/1)総理が説明したように「行動変容・新しい生活様式」によって、コロナウイルスを押さえ込む必要があり、そのために「更なる自粛」が“国民”に求められる、と発言しておられました』
と、述べ、この「期待通り」に関し、
「都知事のゲストとして西浦教授がコメントされておられ、この“明確な減少”に関し、既に、4月27日の東京動画の大体9:30~10;15位の間に都知事に対して、「感染者数自体は明確に減少し始めている。しかし、減少速度自体は、理論上の想定より少し遅いのは明確。また、SDも必ずしも完璧でなく、ゴールデンウイーク中もご協力頂きたい。」
と述べていたのが、
「専門家なら誰の目にも明らか」な状況だった訳である。

更に、8/5メールで述べたように、4月末~5月初の眼前の状況は以下のグラフの通りであり、


「そして現実には、グラフの様に確かに4月27日には新規感染者39人と緊急事態発令以来最低の人数を記録したが、翌28日には再び112名、5月1・2日には165名・158名と再び大幅に増加しており、GW中の感染者が判明する2週間後程度の事を考えれば、1日の専門家会議で“延長”を提言せざるを得なかったと思われる。」
と言う状況であったと記述している。

そして、更に、この間のR値を後付けの5/28のグラフで見れば、8/5メールの通り、


「これを見れば、4月初め以来0.8程度で推移していたRが24日位に一旦1近くまで上昇、その後5月3/4日当たりで0.2位に減少後、7/8日から1を超す値にまで急上昇している事が分る。・・・・R<1であった故緊急事態宣言は必要なかったと言う事が成り立つ代わりに、R>1であったから、緊急事態宣言延長支持は大罪ではなく、全面解除・都アラート解除はすべきではなかったと言う事になる。」
と、述べている。

従って、「緊急事態が解除できる可能性を示唆せず、延期を支持した」と主張されるのは、飽くまで、後付けのR値を、“現在進行形のR”と見做す乃至R値の下降局面だけに注目された議論になっていると考えざるを得ない。

その故か否か、「緊急事態宣言や8割自粛は、少なくともピークアウトには不要でした」とややトーンダウンした書きぶりであり、先の緊急反論②における「もの凄い副作用がある以上、はっきりと効果が見て取れる場合においてのみ、その使用が倫理的に是認され得るからです」乃至「そもそも緊急事態宣言は経済に極めて深刻なダメージをもたらす。それにも関わらず、緊急事態宣言をやってみたところ、(西浦氏が5月12日に公表したデータを見る限り)それによる効果は明確に見いだせなかった」等の強い主張は、今回はされていないようです。

しかし、この「少なくともピークアウトには不要」と言うこの文こそ、何を目的とした緊急事態発令・SD8割(*追記)の要請であったかの総括・評価・共通理解が為されていない事の証左だと思われてなりません。

そして、政治・行政が己の個々の役割・職責に止まり・閉じ籠もり、局所、局所の最適化をはかりMission Creepの中に埋没し、壮大な合成の誤謬が、今も進行しているとの思いにも堪えざるを得なくなります。

そして、そのような思いにならざるを得ないもう一つの記事が、デイリー新潮の記事です。

この記事の内容は、あらまし以下の通りだと思います。
7月19日、菅官房長官は(あるテレビ番組で、次のように)述べた。「お台場に、機動隊のオリンピック用の宿舎があって、これをベッドに改造して4月中に完成している。約800室。ここも最終的には使うことができる用意はしている」
・菅官房長官の「懐刀」と言われる(補佐官)が、・・・・都側に対して『プレハブ宿舎を軽症または無症状のコロナ感染者向けの療養施設として活用せよ』との指示を出していました」と、政府関係者が明かす。
・「しかし、都側は『軽症者、無症状者向けの滞在施設は十分足りている』と回答。すると補佐官は、『軽症者向けの施設ではなく、中等症患者向けの臨時医療施設として活用する』『実際の運営は都にやらせるが、都の意向如何によることによることなく、施設整備を進める』と方針転換した」
・菅官房長官の意を受けて動く補佐官はなぜそこまでプレハブ宿舎の活用にこだわるのか。都側から困惑の声が漏れたのは当然の成り行きだったが、そんな折、補佐官の口から告げられたのは、 「プレハブで医療行為にあたる運営主体は、菅長官の意向により、『湘南美容クリニック』(SBCメディカルグループ)に既に内定している」
・「湘南メディカル記念病院を強引に押し付けようとする補佐官に対し、都側は猛烈に反発しました」と、先の政府関係者。
・「『国立病院か、もっとまっとうな医療法人にして欲しい』と主張する都側に対し、補佐官は『国立病院は独自の役割があるからダメ。他の医療法人は人員を出す余裕がない』として拒否。さらに都側が『公募で選定すべきだ』と主張するなど、運営主体を巡る攻防がありました」
・そのうちに感染自体が落ち着いたこともあり、この計画は宙に浮いた格好になったという。
・現在、都内のコロナ患者の療養にあたっている東京都医師会の幹部はこの計画について「知らされていない」とした。

屡々指摘し、8/5メールでも重ねて記述したように、緊急事態発令前夜の4/7記者会見で総理は、「最も感染者が多い東京都では、政府として今月中を目途に五輪関係施設を改修し、800名規模で軽症者を受け入れる施設を整備する予定です。」と発言しているが、この施設が、官房長官が言及した施設と考えて間違い無いであろう。

そして、5/18付け既メールで掲載し、8/5メールでも言及している以下の表に関し、


「で、上の表は、5/1に厚労省が公表しているコロナ用病床数である。
細かくて見えないが、ピーク時要確保数が31,077で、確保数が14,486である。別途、ホテル等可能室数が16,113とある。
東京は4,000、2,000、2,865である。」
と述べているが、この5/1の東京における確保乃至可能室数には、デイリー新潮記事の書きぶりからみて、オリンピック用の宿舎800床は含まれていないと考えられる。

一方、5/7既メールにおいては、
『4.30日号週刊文春によれば、「都知事が都で(武漢帰国者に)ホテルを準備すると申し出た」にも関わらず、“コロナ対策”の一元的管理が出来ていないために、勝浦のホテル経営者に助け船を出して貰う羽目になり、あまつさえ犠牲者をだしています。』
と、週刊文春の記事を引用し、この場合は、都の申入れ・斡旋を国が断っていた事情があった事を述べていた。

それで、8/5既メールにおいて
「6月26日、都知事は『集団検査に取り組んでいる「成果の表れであると理解している」とした上で、「専門家の分析でこれは第2波というわけではないということだ」と指摘。医療体制もひっ迫していないとの認識を示した』(Bloom Berg延広絵美)との事であり、このスタンスは現在でも変わりないないと思われ、7月5日の都知事選・同10日からのイベント拡大も予定通り実施された。
このスタンスは、西村大臣・菅長官も同様であるが、“都の問題”発言・7月22日から実施のGo Toトラベルキャンペーンから東京が除外された事等、国・各自治体の微妙な不協和音もこの間析出してきている。」
と書いていた中の官房長官の「都の問題」発言は、7月「11日、北海道千歳市内で講演」(毎日新聞)での事である。

そこで、これら一群の発言があった7月当時の都の病床の状況はどうかと言うと、8/5既メールで記述していたように、
「都は(7月)7日、感染者数の増加を受け、新型コロナ専用病床を13日までに、それまでの1000床から2800床に拡大するよう各医療機関に要請。ところが15日時点で確保できたのは約1500床にとどまった。21日、都は2400床まで確保が進んだと明らかにした。」(東京新聞7/22)
や、
7月22日日経は、「軽症者施設、23府県不足」として、都の場合1529人軽症者・無症状者にたいし371人の不足の数字を報じているが、その基は、厚労省の第二波推計モデルに依るとしている。』
と、言った状態であり、この間、一旦、都が確保していたホテル等が、契約切れになり、再契約協議中であった事から、「国の方で、未使用期間中の賃貸料なり補助金も出すと言っているにも関わらず、都の方で、契約切れをおこしているのだから、すぐれて都の問題」だとの官房長官乃至某の方の発言もあったかやに記憶する。

これらの微妙な“国・各自治体の微妙な不協和音”が、那辺から生じたのかは、それぞれの言い分があろうし、外部からはうかがい知ることは出来ないが、“(当座の)最終的”に、都がオリンピック用の宿舎の提供を拒んだのは、デイリー新潮の記事の内容に間違い無いとすれば、「運営主体は、菅長官の意向により、『湘南美容クリニック』(SBCメディカルグループ)に既に内定している」事に対して、「都側は猛烈に反発」した事に依ることは明白であろう。

8/5メールにおいて、
「政治家が自分の選出母体を大事にする。役人が、自分の権限内で行動し、越権行為を冒さない~非難されるべき余地はない。」
と、記述していたが、続けて、
「しかし、合成の誤謬という概念がある。部分、部分が最適行動を取っていたとしても、総体の結果が最適かと言えば、必ずしもそうでない事があると言う事である。」
とも述べている。
そして、
「今こそ、各政治家が各出身母体を大事にするように、各官僚が自らの各権能を十二分に行使しているように、各政治家が国民全体を見て、各官僚がそれぞれの権能の全体像を見て、コロナ戦を各“地域”で戦う各自治体に対し、何が“総合調整”機能としてPUSH型で支援助成提供しうるのかの全体像を明らかにし、それを広く国民に知らせ、そして、国民の協力を仰ぐようにすべき時だと強く感じる。」
と、書いている。

本来的に、“地域の実情”に応じて、各自治体が地域の病院・医療団体等と協議・調整しつつコロナ対策に従事する・行動して行く事が、特措法の基本乃至国、厚労省の基本的対処方針乃至基本計画であった筈だ。


上図が小さくて見えづらくとも、内容は、周知されている筈だ~各自治体には!

而るに、その事が政府乃至中央官庁のど真ん中では、徹底されていないらしい。

都知事が、“天の声”が聞こえてきたと発言された際は、まだ、緊急事態発令直後であり、色々、混乱や錯綜した状況等も考えられなくもない、と言う事もあったかもしれないが、既に、第一波が去り、相当の経験・学習・習熟期間等も終ったであろう7月初旬に、冒頭の、テレビ番組での発言である。

デイリー新潮の記事の終りには、
「計画は今も生きており、病院の中等症患者の受け入れが逼迫した時、実行に移されることになっている。菅さんが東京のホテル不足を繰り返し叩くのも、この計画にこだわっているからこそ、です」(前出の政府関係者)・・・「・・・これは人命にかかわることですから・・・納得できるだけの説明が必要だと思います」
悪夢のような計画が実行に移される日が来ないよう、祈るしかあるまい。
と、結んである。

正しく、先ず隗より始めよ、ではないが、本来的“総合調整”を、まず、本来的“政権中枢”から始めなければ、到底、このコロナ戦における勝利~感染の収束・感染被害者の最小化・経済への影響の最小化~は覚束ないと考える。

8/5既メールの最後に記した、
「延々述べてきたのは、延々述べざるを得ない“目詰まり”の根の深さが、絡み合いの複雑さが有るからであり、これを、整理する、正常に戻して行くには、それこそ、西浦教授の様な“クーデター”を起こし続けて行くしかないのであろう。
しかし、人それぞれ立場・生活がある限り、それも、現実的には中々期待するのは酷な事柄であろう。
とすれば、そのもつれの一つ一つを厳しく解明・究明・指摘・批判して行くしかないと考える。
貴番組に期待すること大なる由縁です。」
との、思いが一層募る。

堤キャスター、益々の御奮闘を祈念して、最後のメールとします。   草々

*追記
なお、既メールにおいて、度々指摘しているように、西浦教授乃至クラスター班は、大阪・東京における3374人・530人等の予測値、ピーク時6000人のSD8割りグラフ、「期待通り」の予測値等々の根拠を公表し、また、差異分析・理論的検討、並びにその修正等々を行い、これも公表されて行くべきと考える。

~批判すべきとすれば、正しく、この様な事を今までされてこられていないという事だと考える。

~SD8割自体については、この間報道されているビックデーター等から、8割は都全体では達成されていない事は明白であり、SD8=P8と見做すことの検証は、これほどの経済的影響を与えた所謂社会実験を行った訳であるから、看過されるべきものではない。これらを踏まえた上で、ドイツで行われたという日本におけるR値-GDPの最適解を、山中教授の参画されるコロナ対策分析有識者会議とも協同して、出すべきと考える。

~これらが、的外れか否かは別途、この様な科学的反省があってこそ、藤井教授等の批判に対し岩田神戸大教授が指摘されている『「西浦先生がいらっしゃらない世界(=疫学的数理モデルが無い世界)」と「いらっしゃる世界(=疫学的数理モデルが有る世界)」のどっちがまともな世界かというと、当然いらっしゃったほうがいいに決まっているんです』(「感染爆発を押さえた西浦先生の『本当の貢献』とは」緊急連載①)[BESTTIMES5/27])と主張され、その根拠として、“西浦先生のいらっしゃらない世界”では、今まで、「政府の人達は『コロナ対策として○○をします』とは言うんですが『なぜ○○するのか』を説明しないし、『○○することで、△△というアウトカムを出す』という目標や狙いを一切言いませんでした。・・・・現実にはどんなに失敗していてもアナウンスの上では百戦百勝なわけですが、今回は『この目標(8割の人の外出を減らす)を目指します』と明言したからこそ『うまくいった、いかなかった』という議論が出来るわけです。このように議論の土台を作り、『評価が可能になった』こと自体が、日本の感染症対策においては巨大な前進なんです。」と述べられている、その「巨大な前進」がなし得る筈のものであろうからである。

思えば、このメールを含め都合10回に渡りメールを発信した事の始まりはPCR検査の感度乃至特異度にありましたが、長々と続けたのは、実に、この西浦教授の論文でSIRモデルの存在を知った事にあります。
そして、そのモデル自体の理解度乃至仕方は別途、このモデルを活用する事により、岩田教授が「巨大な前進」と言われる“時間軸及び量的基準”を伴う明確な“目標”を定めたコロナ対策が策定しうるにもかかわらず、西浦教授自らも認める“コミュニケーション”の拙さもあり、折角のモデルが、時に“データー”のつまみ食いにより、時に“センセーショナル”に喧伝される事により、政治・行政の“根”の深さの中に絡められ、その真の利用価値が発揮されて来ていない事に憤りを感じて来たことにあります。

更に、新分科会の設置・Advisory Boardの再開・西浦教授の京大移籍等の動きにどのような関連性があるのかはともかく、池田氏・藤井氏等のSD8割と巨大な経済損失とを直線的に論難する議論を見ると、岩田教授の指摘する『評価が可能になった』というこの一点を欠けば、「巨大な前進」はたちまち「巨大な後退」に転じ、“深く複雑に絡みあった根”は今後とも、「壮大な合成の誤謬」を、自らの“Mission Creep”の内に生み出し続けて行くであろうとの思いからでした。

今一度、事実の一つ一つを厳しく解明・究明・指摘・批判し、世論を喚起されていくよう期待しております。

**新規情報におけるご案内の通り、「選択9月号」の記事を追加掲載します。(2020・9・4)