五輪組織委員会に見るガバナンスの欠如その2

ながつま昭 【コロナ対策・その他ご意見】情報募集受付;2021/03/03 (水) 15:37

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昨晩、五輪組織委員会が定款を変更、理事の数を35名から45名と増やす事とし、女性理事候補12名を選出したとのニュースが流れました。
実は、森前会長が辞任表明をされたとき、”相談役”に成るとの報道も流れたため、会長は辞任するが理事には残るのか、両地位とも辞任するのか、何れになるのか思っていましたが、橋本会長理事が選任・選定された2月18日の12時29分スポニチアネックスに、組織委員会が森氏が12日付けで辞職した事を明らかにしたとの報道がされ、続けて、同会が次期会長が選定されるまでは森氏が会長との説明もしていたとの事です。そこで、同報道には、森会長が会長・理事を辞めているので、理事1名欠員状態と成っており、同日午後に橋本氏が理事として選任されても、理事の上限35人という定款を変更する必要はなくなる旨の解説が続いています。
先に貴員にメールした際にはこの記事は見ていなかったのですが、そのメールの中で、”ガバナンス”上の問題として、
①評議員が理事は選任出来るが会長は選定出来ない。
②逆に、理事は会長は選定出来るが、”現状の“理事の中からしか選定できない。
③理事が理事を選任する事が出来るとすれば、これは違法。
④理事が理事の中から会長を選べず、理事が選考した候補を評議員が選任するとすれば、そのような候補を選任していなかった評議員のガバナンス不足。
④’いや、むしろ選任すること自体が法・定款に比し違法。
の5点があるのでは書いていました。
そして、
①については、橋本現会長は、飽くまで、欠員理事の補充として選任したのであり、”会長候補”として選出した検討委員会も、今、思えば巧妙に”会長候補者検討委員会”ではなく、「会長」が欠落しております。
②については、定款には欠如していますが、一般法人法90条2項3号に「・・・理事の中から代表理事を選定しなければならない」と明文規定があります。
この点、春日良一氏が「なぜ、新会長が橋本聖子でなければならなかったか?」(2/28(日) 8:00配信FORBS.JAPAN)の中において、「規則から言えば、公益財団法人の会長を選ぶのは理事会による理事の互選である。理事会が機能していればそれで済む話である。」と理事会の「機能不全」の批判はされていますが、明文規定違反の可能性については言及されていません。
③については、理事が理事を選任している訳でなく“理事候補”を決定しているだけですから、甲府市の社会福祉法人の様に贈収賄に問われなければ合法と言う事でしょう。
④については、組織委が先のスポニチにある通り“森氏が会長”であり、「理事候補」を評議員会として「選任」した、と言う事に解釈されるのでしょう。よって、④‘は問題にならない、という事だと思います。
そこで、これらと、先のスポニチの報道と合わせ、解釈すると
A,12日に森会長が会長職理事職を同時辞任。理事一名欠員となった。
B.残存理事では理事会機能不全で会長を理事の中から選定できないので、“理事”「候補者検討委員会」で橋本大臣を選考、理事会で満場一致で決定した。
C.評議委員会では、違法性は何等無く、橋本大臣を理事として選任した。
D.引き続く理事会で、“理事の中”から、橋本氏を「会長」に選定、森氏は、この時点で、会長ではなくなった。
全て、違法性・ガバナンス上の問題は「橋本会長」選出過程においてはない。
川渕“密室人事”における透明性の問題も、既理事からの会長選定では無かったために、結果的にはなく、また、満場一致で決定している点からもなかった。
と、されているのだと思います。
しかし、橋本会長が選定される迄の6日間、12日から18日までは会長職には森会長であったという組織委員会の説明の根拠は何かというと、それは、一般法人法79条の
(代表理事に欠員を生じた場合の措置)
第七十九条・・・定款で定めた代表理事の員数が欠けた場合・・・辞任により退任した代表理事は、新たに選定された代表理事・・・が就任するまで、なお代表理事としての権利義務を有する。
にあると思われます。
この点、定款では、
第23条当法人に、次の役員を置く。
(1)理事3名以上35名以内
(2)監事1名以上3名以内
2理事のうち1名を会長とし、会長以外の理事の中から副会長、専務理事、常務理事を置く。
3前項の会長をもって一般法人法上の代表理事とし、専務理事及び理事会の決議によって業務執行理事として選定された理事をもって一般法人法第197条において準用する一般法人法第91条第1項第2号の業務執行理事とする。
とあり、また、
(役員及び会計監査人の任期)
第27条・・・
5理事・・・が第23条に定める定数に足りなくなるときは・・・辞任により退任した理事・・は、・・新たに選任された理事・・・が就任するまで、なお理事・・としての権利義務を有する。
とあります。
そして、この27条の規定については、一般法人法では先の79条の前の75条に
(役員等に欠員を生じた場合の措置)
第七十五条 ・・・定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、・・・辞任により退任した役員は、新たに選任された役員・・が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する。
とあります。
しかし、(見る限りにおいて、)先の第79条に対応する規定は定款に見当たらず、定款上は上の第27条、または
(法令の準拠)
第48条本定款に定めのない事項は、一般法人法その他の法令に従う。
によって、組織委員会は「森会長が辞任後も橋本会長就任までは、 “代表理事”であった」と説明していたものと考えられます。
とすれば、ここに以下の問題が生じて来るのではないかと思います。
森会長が、辞任後橋本新会長就任時まで、会長理事であり得ることは79条と23条2項から明白ですが、スポニチの解説のように橋本理事が理事として選任されうる「理事1名欠員状態と成って」いたか否かです。
「定める定数」乃至「定めた役員の員数」の解釈ですが、定款上理事の数は3~35名となっていますから、もし、理事が3人しかおらず、1名が辞任すれば、当然、新理事就任までは理事としての権利義務を有することになります。
しかし、文字通り「定数に足りなくなるとき」乃至「員数が欠けた場合」に、「新理事就任までは理事としての権利義務を有する」と解すれば、森会長が辞任しても、1名の理事の欠員とは成りません。
そこで、定款上は3~35名となっていますから、1名止めても理事数が3名以上に変わりはありませんから「理事辞任=理事1名欠員~理事選任」となったものと思います。
で、森氏が、代表理事で無かった場合は、理事1名欠員で良かったと思われますが、森氏は代表理事ですから、「代表」は辞任されても、新代表理事が就任するまでは代表「理事」としての権利義務を有されているわけです。即ち、理事欠員の状態には成らないと考えられます。
それで、実は、先のスポニチの報道の前日に、同スポニチアネックスの17日09:20報道があり、理事の数は森喜朗氏を含めて最大の35人なので、現理事が候補となった場合は理事の数で問題は発生しないが、現理事ではない人物が候補になれば、現理事の誰かが辞めざるを得ないか定款を変更して理事の総数を増やす可能性もある旨の解説がありました。
ご案内のように、森氏以外に止めた理事はおらず、ネットで定款を見る限り、「この定款は、令和2年6月29日から施行する」となっていますから、理事数を増加した、と言う事もないようです。

それで、同委員会のHPに出ている役員メンバーの数を数えますと、確かに名誉会長以下理事の数は35名となりますが、この名誉会長は、定款上
第37条当法人は、任意の機関として、必要に応じて名誉会長を置くことができる。
2名誉会長は、会長の諮問に応え、理事会において意見を述べることができる。ただし、当法人の業務執行に関する権限を有するものではない。
とあり、理事については、同定款上、
(理事の職務及び権限)
第25条理事は、理事会を構成し、法令及びこの定款で定めるところにより、職務を執行する。
と有りますから、明らかに、名誉会長は理事では無いわけです。(乃至、そう解釈しなければ成らない、と言うわけです)
それで、橋本理事選任時の理事数は最大の35人では無く、34名であり、もともと「定数に足りない」乃至「員数が欠け」て「理事1名欠員状態と成って」いた。
よって、橋本(会長)理事候補は元々欠けていた理事1名の補充として評議員会において選任されていたので、この点においても、橋本現会長選定過程において、問題は何等なかった!と言う事になります。

現在は分りませんが、往々、官僚1流・政治3流と言われました。
今日ある日を思い、理事1名を欠員状態としていたとしたら、仮定には答えなくとも想定には対処していたという恐るべき“危機管理能力”と言うべきか、それとも、政治的行動には最初から何等信を置いていなかった言うべきか
はたまた、単に、名誉会長を理事と誤算していた僥倖なのか、それとも、男性理事としてはもはや選考しうる人材がいなかったのであるか否か

すべては、憶測の仕様もないことですが、法的・定款上・プロセス上・透明性上、全て、説明できる・解釈できる・違反はない、と言う事で、問題は無い、ガバナンス機能も果たされていると言う事になるのでしょうか

先の甲府市の社会福祉法人の様に贈収賄においては、評議員会で理事長らが依頼した通りに決議し、理事長らが都合のいい法人運営をしようとした疑いが有るようですが、公然たる“会長”理事候補を選任することにガバナンス上の問題は本当にないのか
理事会が機能していればそれで済む話である、とするならば、それで済まない話しになっている現状にガバナンス上の問題は本当にないのか
と言う疑念が拭い去れません。

今回、定款変更により女性理事登用・女性活躍の場を作ること自体には何等問題は無いと思われますが、従前と同じく「理事会が機能」しなければ、逆に、単に“女性蔑視”乃至“ガバナンス後進国”とみなされ、“世界からの信用を失ってしまうことにつながりかねない”状態は変わらないのではと危惧する次第です。

先だって、野田前総理が出演された番組を見ましたが、前総理の発言を受けMCが、“やはり、政権交代しか無いんですかね”と応じられていたと思いますが、正しくそうだと思わざるを得ない政治状況だと思っています。
貴員の奮闘に期待する由縁です。

追記,上記の甲府市社会福祉法人の贈収賄事件に関し、主務官庁である厚労省の「社会福祉法人制度改革について」というPDFを見たのだが、この平成28年3月31日に成立公布された法改正の主眼は、「経営組織のガバナンスの強化ー議決機関としての評議員会を必置」と”いの一番”に掲げられているものの、内閣府とは違い、「法人のガバナンス確保のための最高の責任を負っている」旨の表記は見当たらない。

無論、一般法人法にしろ福祉法人法にしろ法の中に”ガバナンス”と言う言葉が使われている訳では無く、法制定改正の”眼目””象徴”と言うべきものであろうから、同じ”ガバナンス””評議員会”と言う言葉は使われているものの、主務官庁により、その”ガバナンス“”評議員会”というものへの”思い入れ”が違うと言う事を如実に示している、と言う事なのだと考える。

とすれば、明らかに、公益財団法人における”評議員会”のガバナンス{機能)への期待は大きいものがあると言う事になろう。

所で、このPDFの中に、「一般財団法人・公益財団法人の運用では、評議員は、中立的な選定委員会等の方法により選任されている」として、以下の参考図が掲載されている。


五輪組織委員会においては、評議員の選任に当たっては、定款上、格別、上図の様な”中立的”評議員選任委員会を設置する旨の規定はなく、一般法人法に従って選任するしか現状は書かれていないのだが、今回の「候補者検討委員会」は正しく(中立的か否かは別途)この「委員会」方式を取ったと言える。

一方、理事の欠員ある場合においては、「一般社団法人に理事1名を追加で選任する手続きと登記」と言う”代表司法書士 石川宗徳”氏のブログがあり、「一般社団法人の理事は、社員総会の決議によって選任することができます(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「法人法」といいます)第63条1項)」から、「理事の選任手続きは、一例として次のような流れで行います。
1. 理事の決定理事会の決議
2. 招集通知の発送
3. 社員総会の決議
4. 理事の就任承諾
5. 登記申請 」としてあります。

そこで、この二つを合わせれば、今回、五輪委員会で行われた、まず、会長理事選任委員会で会長理事となる理事を選考、理事会で満場一致で単なる理事として1名追加決議決定、評議員会で単なる理事として決議選任、理事会で会長理事に選定、という流れになります。

そこで、この上のそこで以下の文章の青字の文字を読み飛ばせば、正しくガバナンス上の問題は全くない、と言う事になると思いますが、指摘している・問題としているのは、”実質的”にはこの青字が入った選考・選定・選任が行われている、と言う事です。

先にナチスの政権奪取・ヒトラーの独裁化を指摘しました。

理事会の機能不全と評議員会の実質執行機関化、評議員会のガバナンス機能喪失と理事会の独裁的機関化、とは表裏一体の関係、また、理事会と評議員会の野合・翼賛化は”公益目的”の喪失・財団財産の私権化、ひいては国民主権の否定にも繋がって行くのではとの危惧もあります。

五輪組織委員会が、それこそオールジャパン的組織であり、国際的に日本と言う組織そのものと見做される。

それ故、会長発言が、日本社会そのものの國際社会への発言と見做される。

よって、五輪組織委員会のガバナンスは、日本社会におけるガバナンス機能のバロメーターと見做されるのだと思います。

拙文を著わす次第です。